この作品は、思わぬ子供が生まれたようなもの
ー ウェイ・ダーション(魏徳聖)
6年ぶりに自身の監督作が公開されているウェイ・ダーション監督
いつの時代も、人々の心をキュンとさせ、じんわりと暖かい気持ちにさせてくれるのは「恋愛」。そこには単に幸せなだけでなく、辛さや悲しみも含まれていますが、それでも恋愛は人に勇気を与え、人生を励ます糧に成長していきます。そんな恋をしませんか?と、年齢・性別に関係なく、あらゆる人々に向けて呼びかける「恋愛讃歌」を、なんとウェイ・ダーション監督がミュージカルというスタイルで作り上げました。台湾では2017年のお正月(春節)映画として公開された本作、バレンタイン・デイの1日を描いていますが、日本では12月16日より、クリスマスをはさむロマンチックな時期に公開されています。
公開前の11月、2つの映画祭の合間にウェイ・ダーション監督が来日。単独インタビューの機会をいただいたので、本作誕生にまつわるお話をいろいろと伺いました。ぜひ、映画と共にお楽しみください。
ミュージカル作品になったわけ
ウェイ・ダーション監督といえば、日本と台湾の関係を歴史から紐解き、その中でユニークなドラマを展開していく作風で知られています。が、今回はその世界から離れ、都会に暮らす様々な人たちの恋模様をシンプルに描いています。しかも、ミュージカル。まずは、そこから尋ねてみました。
Q:今回はミュージカルということで、とても驚いたのですが、10年前の最初に思いついた時は違う物語だったそうですね?
監督「最初は花屋の女の子とパン屋の男の子だけの話でした。この二人以外は、だんだん少しずつ増やしていったんです」
(c)2017 52Hz Production
Q:ミュージカルにしようと思われたのはどうして?
監督「映画はドラマなので、いろんな会話やセリフがあります。でも、今回はこういうテーマなので、会話にしてしまうと何か惹きつける要素が足りなかった。受け止めてもらえない気がしました。いい感じのセリフを書こうとすると、非現実的な内容になってしまう恐れもありました。そこで思いついたのが、歌を通して表現すること。歌詞なら自由に書けるし、歌だから受け入れてもらいやすい。ミュージカルにするのがぴったりだと思ったわけです」
Q:「甘く幸せな映画を作りたい」ということですが、何か感じておられることがあるのでしょうか?
監督「都会に住んでいる人間というのは、なかなかお互いに親しくなれないですよね。僕も台北に住んでいますが、なんとなく距離がある。たとえば昔は、誰かの家へ遊びに行きたい時は、勝手に行けばよかった。いなければ、ああ、いなかったと。今はいちいち連絡し、いつ、何時にと予約しなければなりません。南部に住んでいた頃は、友達の家に行きたければ勝手に行って、いなければ家族の人と話をして『また来ますね』と自由に行き来できたんですが、今はなんでも予約しないといけない。そうすると、なかなか親しくなれません。物理的な距離は近いけど、心に開きがあるんです」
Q:心に壁を感じる?
監督「そう。でも、恋愛は違うと気づきました。恋に落ちると、周りの通行人がニッコリ笑っているように見えるんです。でも、恋をしていないと、周りもつまらなく見えてしまう」
親しみやすい珠玉のラヴソングたち
Q:2回拝見したのですが、2回目の方がすごく面白かったです。
監督「台湾でもそういう声をたくさん聞きました。1回目は、話を追うのに忙しくて、よく観てないんですね」
Q:2回目の時は、歌の歌詞がすごく頭に入ってきて、とてもいいなと思いました。つい歌いたくなりますよね。台湾では、歌う試写会もされたと聞いています。
監督「やりました。皆、とても楽しんでいました。『俳優も来てイベント会場で一緒に歌います』と発表すると、なんとチケットが1、2分で完売したんです。特にイベントの最後では、すごくたくさんの人が来ると思って一番大きなホールを借りました。満席になったのですが、歌い始めると、観客の中の誰かがいきなり立ち上がってサキソフォーンを吹いたんです。映画の中で、スミンが花屋で『ドとミ、ソがない』を歌う時に、たくさんバンドが出てきますよね。あんな風になって、すごく盛り上がりました。皆、大喜びでした」
Q:日本でもできるといいですね。
監督「(うれしそうに笑って)観客が多いといいんですよね。映画を2回も3回も観た人は、一生懸命歌いますから」
ダーハーが夢想する夢の結婚式にも、花屋で登場したバンドが登場
(c)2017 52Hz Production
Q:たくさんの歌がありますが、好きな歌はありますか?
監督「映画のラスト近く。レイレイとダーハーがレストランで着席して歌い初めて、それから彼が彼女を駐車場へ追いかけていく時の歌(『まだ間に合う』)が好きですね」
Q:その後の「十年」という歌もいいですよね。
監督「うーん『十年』ね。でも、僕はさっきの歌の方が好きです(笑)」
Q:マー・ニエンシェンさんが作った「ドとミ、ソがない」も面白くて印象に残ります。どの歌も、覚えやすくて親しみやすいですね。
監督「2回観ると、どの歌も口ずさめますよね。中国語の歌詞そのものが、すごくよくできているんです」
Q:もともと、ミュージカルはお好きなのですか?
監督「好きです」
Q:参考にした作品はありますか?
監督「やはりブロードウェイのミュージカルや作品をたくさん観て参考にしようと思いました。また、ミュージカルを映画化した作品もずいぶん観ました」
Q:逆にこの映画を舞台にするのもいいですよね?
監督「台湾でも舞台にしてはどうかという話がたくさん出ました。しかし台湾では、ミュージカルはそれほど人気がないんです。いくつかの相手と話はしたのですが、皆『ミュージカルねえ』と。普通の舞台劇をやりたかったようです」(次頁へ続く)
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