絶妙なキャスティング
本作で主演の4人を演じるのは、台湾で活躍している4人の人気ミュージシャンたちです。パン職人の青年シャオアンを演じるのは、日本でもライブを行ったことのあるバンド「宇宙人(Cosmos People)」のボーカル、シャオユー(小玉)ことリン・チョンユー(林忠諭)。また、花屋のシャオシンを演じるのは、ユニット「綿花糖(katncandi×2)」のボーカルで、今はソロとして活躍しているシャオチョウ(小球)ことチョン・チェンイン(荘鵑瑛)。シャオアンが片思いするレイレイを演じているのは、モデル兼歌手でデビューし、今は「小男孩樂團MECBand(Men Envy Children)」でボーカルをつとめるミッフィー(米非)ことチェン・メイフイ(陳美恵)。そして、同棲中の彼氏ダーハーを、台湾原住民バンド「圖騰樂團(Totem)」のボーカルでソロとしても活躍し、昨年は映画『太陽の子』の主題歌「不要放棄」で台湾金曲賞を受賞したスミン(舒米恩)が演じています。
Q:キャスティングですが、主役に彼らを選んだポイントは?
監督「この4人の歌手は皆、バンドでボーカルをやったことがあり、ボーカリストなんですが、観客との縁を持っています。彼らはステージにあがると、歌だけでなくおしゃべりや雰囲気作り、場を盛り上げていくことに慣れています。外見だけじゃなくて、実力と個人の魅力もあるんです。音楽の基礎はもともと持っていますから、そこが起用した大きな理由ですね」
アラサーのシャオシンとシャオアンは配達をきっかけに知り合う
(c)2017 52Hz Production
Q:皆さん、俳優としての経験はそう多くはないと思いますが、演技も上手でした。
監督「自然なんです。キャスティングのポイントは、歌手の持っているキャラクター。脚本はできているし、人物設定もできている。だから、この人物設定と同じキャラクターを選べばいい。とてもうまく演じているけど、実は皆、オフの時もまったく同じなんです。そのまま、自分を演じていたんです」
Q:それにしても、スミンさんは面白いですよね。
監督「彼はもともと、おかしなキャラなんです(笑)この二人(スミンとミッフィー)はほんとうに面白かった。たとえば、二人の共演の場面を撮る時、かなり深夜まで撮影するんですが、片方が居眠りを始めると片方がくだらない話をして笑わせて、居眠りしないようにする。それで、撮影にのぞむんですが、現場の我々も見ていてほんとうに可笑しかったです」
レイレイとダーハーは10年目の危機を乗り越えられるか?
(c)2017 52Hz Production
Q:とても大人っぽい女性と、とても子供っぽい男性の組み合わせが絶妙ですね。
監督「やはり音楽をやる人には、そういうところがありますね」
『海角七号 君想う国境の南』のキャストが総出演!
本作には監督のデビュー作『海角七号 君想う国境の南』の主要キャストが総出演!ラストのレストランでのシーンで懐かしい顔ぶれが揃います。まずは、ヴァン・ファンことファン・イーチェンが率いるバンド。ミンション、マー・ニエンシェン、イン・ウェイミンとフルメンバーで登場。ファン・イーチェン作曲の「大世界小世界」に合わせて踊るのは、田中千絵、シノ・リン、マイズ。客としてマー・ルーロンもペイ・シャオランと夫婦で登場しています。
久しぶりに集まった「海角バンド」のメンバー
(c)2017 52Hz Production
Q:『海角七号』の皆さんがたくさん出てきましたが、これは最初から予定されていたのですか? それとも思いつきで?
監督「実はもともと『海角七号』の俳優たちに、この映画をやってもらおうと考えていました。しかし、正直なところ、彼らも40代になってしまい、ちょっと歳かなあ…と。そこで、このチャンスは若手にあげることにしました。この映画自体は音楽性が高いし、また『海角七号』も音楽と関係があり、皆さんとても優れています。だから、やっぱり登場してもらおうと思い、無理を言って出てもらいました。キャラクターもそのために書きました」
なるほど〜!ということは、レイレイとダーハーは田中千絵とファン・イーチェンが演じるはずだったのかもしれませんね。友子とアガのその後、という感じで。
Q:『セデック・バレ』のリン・チンタイさんも出演しています。
監督「リン・チンタイについては、役柄はもともと脚本にありましたが、どんな人にやってもらおうか、一般の素人にやってもらうおうかと、正直、迷っていました。この役は父親でもあり師匠でもあり、台湾ではこういった父親役は大体役者が決まっています。それは、あえてしたくなかった。そこで、真逆のアプローチをしようと思ったのです。むしろ、こういう父親や師匠役がまったく似合わない人にやってもらう方が、映画になった時に落差が大きくて、返って面白いのではないかと。そこで、彼にお願いしました。前の映画では人をいっぱい殺していたけど、今回はパンをこねているんです(笑)」
リン・チンタイ演じるシャオアンの師匠はシャオシンの叔母と知り合う
(c)2017 52Hz Production
Q:とても似合ってましたよ。(監督大笑い)ロマンスもあるし。このお父さんのロマンスも、最初からあったんですか?
監督「もとからありました」
Q:今回は歌い方が、皆さん、ふだんとは違いますよね? 発声法とか。
監督「リン・チンタイさんにとっては、この映画で初めてポップスを歌ったと思いますね。普段は教会なので、賛美歌や原住民の民謡を歌っている。今回、初めて流行歌を歌ったわけです。最初、練習をする時は、けっこう戸惑っていたようです」
Q:この役は気にっておられたんでしょうか?
監督「気に入っていました。正直なところ、最初はまったくやりたくなかったんです。そこで「安心してください。絶対可愛く仕上げますから任せてください」と、ずっと頼み込みました」
Q:可愛かったですよ(笑)。かわいいといえば、マイズも大きくなりましたね。
監督「もうすぐ大学卒業ですね」
Q:将来は女優をめざしているのでしょうか?
監督「ええ。今通っているのも演技の大学で、女優志望です。しかし、台湾は狭いので機会は少ないですね。前にテレビドラマに出演していました。1、2回そういう機会があったけど、いつもどこかで出ているという機会は、なかなかないですね」
気になる台湾3部作
そして、そんなウェイ・ダーション監督の本領が発揮される真の次回作となるのが、台湾の歴史を描く壮大な3部作です。
Q:次の作品はもう取りかかっているのですか?
監督「準備中です」
Q:2年前にお会いした時に、あと2年かかりそうとおっしゃっていたのは、この作品ですか?
監督「違います(笑)」
Q:台湾の歴史のお話ですよね?
監督「そうです。今回は想定外でした。今準備している作品は規模が大きくて、ものすごく時間をかけなくてはなりません。いろいろとやることはあるのですが、今回はたまたま、別の人に仕事を任せている間、時間ができたのでこれを撮ったのです」
Q:さすがですね。
監督「思わぬ子供が生まれたようなものです(笑)」
Q:でも、2回目はないですよね? いつも違う作品を作られるので。
監督「ないない。1回で十分です。今回は、遊んで撮ったという感じですね」
歴史大作になる「台湾三部作」の完成まではまだまだ遠い
Q:重い作品と気軽な作品が交互に出てくるのはいいですね。日本で映画を撮ってみたいというお気持ちは?
監督「次の映画は日本でロケする予定があります」
Q:日本の俳優さんも出るのですか?
監督「多分あると思います。多くはありませんが、いくつかの役柄はあるでしょう。400年前の台湾の話を撮ろうとしているので、当時の台湾と日本の間では、貿易くらいの付き合いしかなかったと思います。その中で、一人、重要な役柄で日本人が登場すると思います」
Q:その作品は、いつ頃、観られるのでしょう?
監督「うーん。すごく、歳をとってからになるかも。かなり時間がかかると思いますね。後、6、7年くらいかな」
Q:では、またいくつか、こういう映画が観られるかもしれませんね?
監督「だめ、だめ。今は全身全霊でこっちに取り組んでいるんです」
というところでインタビューは終了しました。次回作まで6、7年かかるかどうかは監督次第ですが、監督のことだから、きっとまた想定外な作品が飛び出すのではないでしょうか。
『52Hzのラヴソング』は30代のカップルを中心に、様々な恋愛模様を縮図にして盛り込んだ作品。恋人募集中の人から、片思いの人、恋愛中の人、赤信号が灯っている人、すでに恋愛は卒業したという人まで、誰が見てもどこかに共感し、また恋がしたくなる作品です。素晴らしい歌の数々と共に、じっくり味わってご覧ください。
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