郊遊<ピクニック>(郊遊/Stray Dog)
story
子どもたちが寝息をたてるベッドの傍らに座り、女(ヤン・クイメイ)が髪を梳く。子どもたちの寝息が耳を離れない。子どもたちの寝顔をたしかめながら女は去る。
昼間。子どもたちは大きな樹のある森で遊ぶ。父(リー・カンション)は草むらで小舟を見つける。砂浜で追いかけっこをする子どもたち。父も一緒に歩く。波が光る。それは束の間のピクニックのよう。子どもたちはスーパーマーケットで試食の品をもらって食べる。
父は路上で不動産会社の立て看板を掲げる。風が吹く。雨が顔を打つ。車の波が押し寄せ、信号で停まり、また押し寄せる。満江紅を詠い、涙をこぼす。夜になる。その日の仕事が終った父と子どもたちは、路上で弁当を頬張る。
公衆トイレで歯を磨き、水浴びをする。住んでいるのは、水道も電気もない空き家。子どもたちは古びたマットレスで眠る。ある日、立て看板の仲間が去る。父は看板にある物件を訪れる。真っ白い部屋。真っ白いベッド。父はそこで眠りにつく。
スーパーマーケットの女(ルー・イーチン)が妹(リー・イーチェ)の臭いに気づく。髪と身体を洗ってやる。兄妹の様子が気になり、ふたりの後をつける。空き家で眠る家族をのぞく女。夜の廃墟。女が野良犬にエサをやりにくる。壁一面に描かれた河原の絵。女は絵を見つめる。
息子(リー・イーチュン)からなけなしの金を取り上げ、酔いつぶれる父。マットレスのベッドに、娘が買ったキャベツが寝ている。赤い色で顔が描かれている。それは兄妹の母親、去って行った妻に見える。キャベツに枕を押し当てる。そして齧る。何度も齧り、慟哭する。
激しい雨の夜。父はある行動に出る…。
●アジコのおすすめポイント:
ツァイ・ミンリャン監督とシャオカンことリー・カンションによる10本目の長編作品です。今や父親役を演じる年齢のリー・カンションが演じるのは、社会から脱落した哀れな中年男。日雇い労働者として、人間立て看板となり、我が身の不幸に耐え、満江紅を詠って心を鼓舞しています。親子で弁当を食べるシーンが何度か出て来ますが、そんな日常でも、食べる時の顔は幸せそう。(リー・カンションの食べっぷりもよい!)それでも、時折、押し寄せる絶望感。そして男の無謀な決断から、子どもたちを救い出す女。劇中に登場するのは、もともと彼女だけだったそうですが、当時体調不良でこれが最後の映画になるかもと危惧した監督が、常連女優のヤン・クイメイとチェン・シャンチーにも声をかけ、このような流れになったそうです。子どもたちを演じるのは、シャオカンの実の甥(『迷子』にも出演)と姪です。廃墟となったビルの壁画が素晴らしく、登場人物たちと同様に見入ってしまいます。ラスト14分の長回しも圧倒的で、退屈というよりも目が釘づけになることでしょう。
*引退説については、監督がインタビューで真相を語ってくれていますので、こちらもどうぞ。リー・カンションの実像と将来に迫る単独インタビューもぜひご覧ください。
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