お料理帖〜息子に遺す記憶のレシピ〜
(お母さんのノート/Notebook from My Mother)
story
女手ひとつで、30年以上も続く惣菜店と二人の子どもを懸命に守ってきたエラン(イ・ジュシル)。この店の惣菜は「お薬のような料理」と有名で、ガン患者やアトピー患者もわざわざ買いにやって来るほどだ。「この頃忘れっぽくなっちゃって」とエランはノートにメモ書きしながら、長年手伝ってくれている友人(キム・ソンファ)とテキパキ店を仕切っていた。
一方、息子のギュヒョン(イ・ジョンヒョク)は万年非常勤講師で生活力に乏しい。大学の仲間と酒を飲んでいる時、教授の席の斡旋話を聞き、ご機嫌になって友人を実家に誘う。お目当は母が作る「トンチミククス」だ。毎度のことで、深夜にも関わらず母は料理を振舞うが、そのまま実家で眠りこけてしまう息子を見ていつも呆れるのだった。
翌朝、ギュヒョンは家に帰るが、二日酔いで寝てしまう。仕事で家を出なくてはならない妻(キム・ソンウン)は、やむなく義母の惣菜店に幼い子どもたちを預けにいくが、これも毎度のことだった。ところが、仕事をしながら孫の面倒をみていたエランは、家の中で躓いて足を痛めてしまう。
エランには秘密があり、一人で定期的にチュンチョンに通っていた。しかし今回は足を痛めてしまったため、ギュヒョンに車を出して欲しいと頼む。理由は頑なに教えてくれない。だが、途中の湖で車を降りたまま母は物思いに沈み、そのまま引き返すことになってしまう。
そんな中、調味料の分量を忘れたり、仕入れ業者と支払いについて揉めたり、スニーカーを万引きして警察に突き出されたり…エランに認知症の症状が現れてくる。心配したギュヒョンが病院で診てもらうと、病状はかなり進行していた。子どもたちの世話になりたくないエランは、店をたたんで施設に入る決心をするのだが…。
アジコのおすすめポイント:
おいしいお料理と共に綴られる家族のドラマです。タイトルから『家族のレシピ』のような内容を想像したのですが、本作のテーマは認知症。忘れたくても忘れられない過去の記憶と、忘れたくないのに忘れてしまう大事な日常が対象的に描かれ、母が隠していた息子との確執の秘密が明らかになっていきます。同時に、のらくらしていた息子が自身の内なる声、天分に気づき、感動のハッピーエンドへと繋がっていきます。監督は『犬どろぼう完全計画』でキュートな子どもたちの映画を作ったキム・ソンホ。監督の実体験もたくさん盛り込まれているそう。重いテーマが魅力的になっているのは、やはり美味しい家庭料理のおかげ。お薬にもなるお惣菜も興味深く、母のノートに描かれているレシピのタイトルはユニークで愛に溢れています。(写真上段の中央は「千日紅の砂糖漬け」。下段は左から「夜食にピッタリの味噌カルグクス」「憎い夫のサバのキムチ煮」「二日酔いに効く冷製トンチミククス」)おにぎりも試してみたくなりますよ。
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