巡礼の約束(阿拉姜色/Ala Changso)
story
まだ薄暗い早朝、ロルジェ(ヨンジョンジャ)は妻ウォマ(ニマソンソン)の泣く声で目を覚ました。夢を見たらしく、何か思いつめているが、どんな夢かは教えてくれなかった。そして、火を起こすと供養を始めた。
翌日、一人で病院へ行ったウォマは、医者と何かを話していた。バイクと共に待っていたロルジェには、なんでもなかったと説明した。あんなに検査をしたのに。いぶかしがるロルジェに、ウォマは「ラサに行くわ」と告げる。五体投地の巡礼の旅だ。ロルジェも一緒に行きたかったが、足のわるい父親の面倒をみなくてはならなかった。
旅に出る前に、ウォマは実家へ戻り両親に挨拶をした。ウォマには亡くなった前の夫との間に息子ノルウ(スィチョクジャ)がいて、実家に預けている。おもちゃを買ってきたのに、反抗期のノルウは顔も見せなかった。ウォマは屋根に保管していた小箱を取り出して中を確認すると、それを持って帰って行った。
五体投地での巡礼は、順調に進んでも1日に5km程度。ラサに着くには1年がかりだ。ロルジェが削ってくれた手板を持ち、ウォマは旅に出た。村の若い娘2人が荷物を持ち、同行してくれた。ところが、ウォマの病気を知ったロルジェは、旅をやめさせようとバイクを飛ばしてやってくる。
ロルジェが来ている間、娘たちは2人とも逃げてしまう。さらに、ノルウがウォマの弟に連れられてやって来た。母親に会いたがっていたのだ。顔を見て帰るはずだったが、ノルウは一緒にラサへ行くと言い張る。やむなく弟は一人で帰り、ウォマはロルジェとノルウの3人で旅を続けることになる。しかし、ウォマの病状は深刻だった…。
アジコのおすすめポイント:
美しく荘厳なチベットの大自然を背景に描かれる、1組の夫婦と妻の亡くなった夫、遺された息子との愛憎と絆を描いた人間ドラマです。冒頭から思いつめた妻の行動がサスペンス感を煽り、それに続く巡礼の旅の間に、様々な思いや人間関係が明らかにされていきます。企画製作は夫役を演じたヨンジョンジャ(容中爾甲)。ちょっと若い頃のウー・マに似たおじさん(失礼!Mayday の石頭にも似てるかも?)ですが、ヤン・リーピンの歌舞劇「蔵謎」をプロデュースするなど、中国はもとより世界でも知られる歌手で、チベット文化の普及・継承を担う芸術家でもあります。その彼が故郷ギャロン(四川省)の文化を伝えようと、チベット文学の著名作家タシダワに脚本を依頼。『草原の河』のソンタルジャが監督に選ばれたことで、脚本に新たな視点が加えられています。ギャロンは美しい伝統衣装でも有名。巡礼に出る前の妻が身につけている髪飾りや衣装はため息もの。山肌にあるバルコニー付きの伝統家屋も興味深く、ジンバが演じる親切な村人の家もなかなか素敵です。夢と共に現れた蛾、灯明の花、鳥葬、旅のお供になるロバ、お寺に貼った写真、などなど、興味深い映像やエピソードが、主人公たちの思いを乗せて綴られ、深い余韻を残します。五体投地での旅といえば、チャン・ヤン監督の『ラサへの歩き方 祈りの2400km』で注目を集めましたが、本作で旅をするのは重病を抱えた女性。そこまでして果たしたかった約束の重さ、死生観など、文明化が進む中で揺れ動く自然と共に生きる人々の思いも託されているようです。
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