●プライベートフィルムだったものが公開されるに至った過程で、ジャッキーにとって困ったということはありませんでしたか?
メイベル「公開することについて、ジャッキー自身はそれほど深く考えていなかったようです。最初に一緒に撮らないかという話があり、2〜3日経つと『後は任せるよ』と一言残して、彼は仕事ですぐいなくなってしまいました。その後、私たちは中国内陸のインタビューをしたり資料集めをしました。
数年後に『どうなっているの? ちょっと見せて。』と急に言ってきたので、その時点での粗編集のものを見せると『けっこう面白いね。』と言いました。ただその時点では、まだこれを作品として広げようとは思っていなかったようです。
その頃、ちょうどベルリン映画祭がありまして、ドキュメンタリー部門のオープニング作品に選ばれたので出品したのですが、現地の反応を見てみると、映画評論家の評判もなかなかよかったし、バイヤーから版権を売って欲しいというオファーも来ていたので、その時点で、ジャッキー自身が初めて『こんな映画でも観たい人がいるんだ』と気づいたのです。
ただ、そうはいっても、映画の中に出て来る親族の方々はかなり戸惑われたようです。ジャッキーはとても親族の意見を尊重する人なので、別に公開しなくてもいいんじゃないかとずっと思っていました。もし、どうしても公開するのなら、アジアからうんと遠い所、イギリス(公開済み)とかヨーロッパあたりから公開してくれと言われました。また、他の映画のように、作品で儲けようという考えはなく、もし収益があれば、老人や孤児の福祉活動に当てたいと、彼は今でも思っています。アジアでは日本が初めての公開で、香港でも中国本土でも公開されておりません。」
このように、プライベート・フィルムという側面を持っているため、今後も香港や中国での公開予定はない模様。
●香港でも公開されないそうですが、今後はどういう展開をお考えですか?
アレックス「この作品には含まれていませんが、少なくとも後5時間くらいの素材があり、ジャッキーの奥さん(林鳳嬌)のインタビューや息子さんの生活ぶりが全部撮ってあります。時期がくれば、続編を作ってもいいんじゃないかと思っています。」
●お父さんから今まで隠していた話を聞き出す上で、注意したことは?
メイベル「最初にお会いした時は『とてもこわい親父だなあ』というのが、率直な感想です。(笑)すぐに怒り出すし、性格も荒っぽくて、ジャッキーすらお父さんの前に立つと、いつ叱られてもおかしくない子どものような姿に戻るんですね。
ただ、内面的にはとても心の暖かいお年寄りだなとも思いました。彼はとてもお酒が好きで、カラオケやダンスもなさるので、私もなるべくおつき合いをしました。そういう風に生活を共にしながら、少しずつお父さんも心を開いてくれて、いろんな話をしてくれました。
ドキュメンタリー監督の仕事は映画監督より大変なところがあります。映画監督の場合は、役者に演技指導をしたりする立場ですが、ドキュメンタリーの場合は取材相手が主役なので、その人を中心にいろんな方法を考えて、インタビューに溶け込んでもらうためにいろんなことをしないといけません。いい話を聞き出すには、それなりの工夫や手間が必要だと初めて思いました。」
●お父さんの若い頃は、とても映画的な人物だと思うのですが、劇映画にしてみたいという気持ちはありませんか?
アレックス「実はその計画が現在進行中です。いくつかの映画会社から提案がありまして、お父さんの人生を映画化しようとしています。ただ、現実問題として、ロケ地がほとんど中国大陸なるのですが、お父さんが人生の中で経験したいろんなことは、中国の中では微妙な問題があります。例えば昔、国民党の工作員をしていたこととか。そういう部分をどういう風に描けばよいか、今交渉しているところです。どちらにも受け入れられるような形で、撮っていきたいと思っています。」
メイベル「もう1つ、キャスティングは誰がいいか慎重に選んでいるところです。お父さんにぴったりの役者は誰だろう?と、今皆と相談しています。お父さんは亡くなられたジャッキーのお母さんをとても大切にしておられたので、お父さん役は慎重に選ばなくてはなりません。そういうのが映画の魂のような存在ですから、一番大事なところだと思っています。ポスターからもわかるように、ジャッキーのお父さんはとてもチャーミングで2枚目で、もし戦争がなかったら、きっとスターになっていたでしょう。カンフーもできるし、歌もできるし、踊りも上手だし、大変役者に向いているタイプの方だと思いますよ。」
初めてのドキュメンタリー作品を元に、新しい映画制作への展開を意欲的に語るメイベル&アレックス・コンビ。ジャッキー・チェンの家族の歴史を綴る続編も楽しみですが、お父さんの人生を描く劇映画もぜひ観てみたいもの。ジャッキー以上にドラマチックな人生を過ごして来たジャッキー・パパの物語が、どんな映画作品として生まれ変わるか、キャスティングも含めて興味津々です。この『失われた龍の系譜』と『香港国際警察』の同時公開。人間ジャッキー・チェンを多面的に捉えることができるまたとないチャンスです。
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