『女帝/エンペラー』を語る
−フォン・シャオガン(監督)
6月2日より公開中の『女帝 エンペラー』。中国一のヒットメイカーであり、これまではコメディ映画が中心だったフォン・シャオガン監督が、初めてシリアスな本格的時代劇に挑んだということでも話題の作品です。しかも、ベースとなっているのが、あのシェイクスピアの古典劇『ハムレット』ということで、ますます興味津々。
公開に先立つ4月の初めに、監督と主演のチャン・ツィイーが来日。まだオープンしたばかりの六本木のニュースポット、ミッドタウンにあるリッツ・カールトン・ホテルで、フォン・シャオガン監督へのインタビュー取材に参加することができました。この作品が生まれた経緯と、俳優たちの演技について、また今後の作品について、監督がおおいに語ります。
(質問、アジクロからの質問、監督)
この作品はシェイクスピアの『ハムレット』をベースにしていますが、これまでのようにオリジナルの脚本ではなく『ハムレット』を選んだ理由は?
監督「実はこの企画は、製作会社が私のところに持ち込んできたものなのです(笑)。これまで私はコメディを主体に撮っていたので、その方向を少し変えてみたいと思っていました。そういう時にこの企画が来たので、大変興味を持ちました。
脚本は大幅に変えさせました。原作の『ハムレット』からなるべく離れて、新しいものを創り出そうと考え、撮影に臨みました。しかし、西洋の観客を狙うという点では、『ハムレット』を下敷きにしたことはとても有利でした。撮り終えた後、西洋の観客にこれがどのような映画なのか説明するには、『中国版ハムレット』の一言で済むからです(笑)。後から考えると、宣伝効果は大きかったと言えるでしょう。しかし、製作段階では『ハムレット』をまったく忘れ去り、中国の物語に仕上げることに力を置きました。
撮影段階では、中国版の『レディ・ハムレット』を撮るんだと話していました(笑)。チャン・ツィイーが演じるワンという女性に、焦点を当てたのです。また、これまでに撮られた多くの時代劇とは全く異なる雰囲気に仕上げたいと思っていました。ビジュアル面で、これまでのものとは一線を画したかった。そういう意図で、私なりの中国版『ハムレット』時代劇を撮りました」
復讐劇ですが、善と悪の境が曖昧になっているところが魅力だと思います。意図的にそうされたのでしょうか?
監督「これは商業映画でアートフィルムではないので、本来ならば善と悪がはっきりしているべきでしょう。善の結果がはっきりと観客にわかるように撮るのが本当なのですが、そのようにはしませんでした。これまでに撮って来たコメディの中にも泣くシーンがありますし、悲劇の中に喜劇があり、喜劇の中にも悲劇がある。それが人間の両面だと思うのです。
善と悪とは、そんなにはっきりしたものではない。この作品では、ちょうど善と悪の境界辺りを描いています。悪にも自分を守るためにそうする、という理由があるからです。皇帝となったリーは残酷ですが、ロマンティックな面もあり、愛を心底信じてしまいます。そのように、善と悪には両面があり、はっきりとした線を引くことはできないと思います。映画では、チャン・ツィイーが、彼女と皇太子や皇帝、チンニーたちとの搦みの中で、善と悪の両方を複雑な心理状態でうまく演じ分けています。チャン・ツィイーの見事な演技のおかげで、この映画は成功しました」
オープニングの竹林のシーンが印象的ですが、どのようにして撮られたのですか?
監督「ロケ地はいろいろありますが、セットの部分は北京で撮りました。雪原のシーンはロシアとの国境地帯。南は安徽省で、そこでこの竹のシーンを撮りました。安徽の地元政府はこの撮影にとても興味を持ち、設計図を見て素晴らしいと言ってくれました。将来『女帝』のロケ地として観光地になるのではという期待を込め、竹の舞台を作るのにもとても協力的で、大きな力を貸してくれました。今、あそこは観光スポットになっています。
美術担当とは、大体2つの要素で美術を仕上げたいと話合いました。1つはチャン・ツィイーの役柄が代表する酒のような雰囲気。彼女が体現しているのは、ウィスキーの香りがするような皇帝一族です。もう1つはダニエル・ウーに代表される、澄んだ清らかなお茶の雰囲気です。この『酒』と『お茶』の両方で美術を考えました」(続きを読む)
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