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asicro interview 32

更新日:2009.12.26

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日本公開版ポスターの前で
Q:中孝介さんを起用された理由、また過去の日本人教師役も演じてもらった経緯をお聞かせください。

 監督「最初は台湾で有名な日本の歌手を起用しようと思っていました。でも日本に来てレコード会社の人たちと接触しているうちに、日本のスター歌手は神様のような存在で、とても相手にしてもらえそうもないというのがわかりましたので、その線はあきらめました。たまたま友人から、日本の歌手が来るから聞きにこないかと誘われた台湾のコンサートのゲストが中孝介だったんです。

 彼は当時まだ台湾でも日本でも知られていませんでした。でも彼の歌声は、まるで、ひろびろとした海にいるように心地よかったので、とても気に入りました。彼がこれからファーストアルバムを出すところだというのを聞いて、それがヒットする方に賭けてみました。その後、彼のアルバムは成功し、どんどん人気が出たので、僕としては、「やった」という気持ちです(笑)。それから教師役も演じてもらったわけですが、過去の青年教師は最後まで顔がはっきりと見えないので、実はそれが中孝介の二役だとわかったら、観客はあっと驚くだろうと思ったのです。それ以上の深い意味はありません」

Q:台湾の観客と日本の観客の反応や見方は、おそらく異なっているのではないかと思うのですが、監督はどういった点を見て欲しいとお考えですか?

 監督「うーん、そうですねぇ。ちょっと考えさせてください(笑)。映画の細部にわたるユーモラスな感覚は、確かに台湾人にしかわからないところがあるんですが、この映画の中で一旦挫折した人々が『人生の二度目のチャンス』や『夢』を掴むというのは、どちらの国の人にもわかってもらえると思います。それから成就しなかった恋については、誰でも悔やむ気持ちがありますが、そんな気持ちをこの映画によって少しでも癒してもらえればと思いますね。

 台湾では、この映画は年代によっても違う視点で見られていたと思います。ひとつ例をあげますが、あるとき知り合ったドアマンのおじさんが、この映画を8回見たというんです。それで僕は『どこがよくてそんなに何度も見たの?音楽がよかったのかな、それとも恋の部分?』と尋ねました。彼は、1回目は自分一人で見て、2回目と3回目は家族と一緒で、4回目から8回目はまた一人で見たそうです。なぜかというと、映画のキャラクターのひとりが自分そのもののようだったので、観客が映画を見て感動しているのをみると、まるで自分に感動してくれているように思えて、とても気分がいいので、結局8回も見てしまったんだと言っていました。人それぞれに見方が違っているし、共鳴する部分が違うものなので、僕のほうから特にここを見て欲しいということはないかな…」

Q:映画を見終わって、誰もが強く感じるのは、シンボルとしての「虹」と「7」という数字へのこだわりだと思います。6月の宮崎映画祭のとき、虹は調和や平和の象徴だと監督はおっしゃっていましたね。

 監督「最初から虹を調和や平和のシンボルとして使おうと思ったわけではなく、だんだんとそうなったのです。60年前の恋と現代の恋を結ぶのが7通のラブレターだけでは、つながりが薄いのではないかと感じていたところ、ふっと虹のことが浮かびました。虹はどの場所でも、いつの時代でも見えるわけです。それで、虹を、過去と現在を結ぶもう一本の線にしようと思ったのです。それにバンドのメンバーは7人いるので、それぞれの個性を強めて七色にすればいいのじゃないかというように、どんどん手直しをしていきました。七色がそれぞれに個性を主張したら、排斥しあうことになってしまうけれども、うまく調和がとれれば、虹のように美しい存在になるだろうというので、最後に虹がシンボルになったんです」

p3 翌日の記者会見では、キャストと一緒に台湾で話題となった勝利の「7」サインを披露。

 昨年『海角七号』が台湾で記録的な成功をおさめ、一挙に「時の人」になった監督ですが、台湾のさまざまなメディアに登場する監督は、常に謙虚で、誠実で、ユーモアを忘れず、にこやかな態度が変わることはありませんでした。今回の取材でも、それまでインターネットなどで見ていた姿そのままでしたので、以前から知りあいだったかのような錯覚に陥ってしまったほどです。「霧社事件」を背景にした、念願の新作『賽徳克・巴莱(セデック・バレ)』の撮影準備で多忙を極めているさなかの来日でしたが、そのようなプレッシャーはみじんも感じさせませんでした。

 台湾のある新聞は、今回の監督とファン・イーチェンの来日宣伝の記事に、「小魏(監督)と小范(ファン・イーチェン)がすっかり日本人を魅了したようだ」と親しみを込めて書いていましたが、まさにその通り。監督や出演者たちの熱い心が紡ぎ出した映画『海角七号/君想う、国境の南』を一人でも多くの観客に見て欲しいと思うと同時に、次回作の撮影が順調にいくことを心から願ってやみません。

(2009年9月28日 シェラトン都ホテルにて/文:イェン)


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次回作『賽徳克・巴莱
(セデック・バレ)』について

台湾の日本統治時代、1930年10月27日に起こった原住民(タイヤル族)による抗日蜂起事件「霧社事件」を題材にした作品。今回も日本との歴史的な関わりが描かれるが、監督の狙いは「抗日」を描くのではなく、あくまで台湾の歴史を記録すること。歴史に翻弄される中で台湾人の心の中にできた矛盾を解かしたいと語っている。
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