躍動する台湾映画界の新鋭
−ウェイ・ダーション(魏徳聖)
台湾において『タイタニック』に次ぐ歴代2位の興行成績を記録し、「台湾映画の奇跡」と称されるほどの成功を収めた『海角七号/君想う、国境の南』が、ついに12月26日からロードショー公開されました。それに先立ち、9月末に東京で特別披露試写会が開催され、ウェイ・ダーション(魏徳聖)監督、主演のファン・イーチェン(范逸臣)と田中千絵が来日しました。そのときの監督インタビューをお届けします。
今回、監督にインタビューするにあたって、映画の小道具に使われていた「孔雀の珠」のネックレスをつけていきました。台湾の桃園空港内にある原住民の民芸品店で買ったものです。それを目にした監督、こちらの予想以上のリアクションで、「一体どこで買ったの?」とびっくりされ、さらには「それで、あなたは新しい恋が見つかった?」などと茶目っ気たっぷりに聞かれてしまい、最初からリラックスした雰囲気での取材となりました。
Q:台湾では、「音楽映画」のようなジャンルは非常に珍しいのではないかと思うのですが、音楽を中心にした映画を撮ろうと思ったのはどうしてですか?
監督「当初いろいろな脚本が手元にあり、暇もたくさんあったので、いろいろ読んでいたんですが、自分にとって最初の長編映画で、しかも小品なので、観客にアピールすることを考えて音楽映画という形式を採用しました」
Q:日本統治時代から歌われている日本の唱歌はたくさんあると思うのですが、シューベルトの「野ばら」を選曲した理由は?
監督「実は、最後の場面の曲を何にするかでずっと悩みました。最後に台湾の歌手と日本の歌手が一緒に舞台の上で歌う曲は、共同の記憶というか、ともに親しみのある曲でないと意味がないと思ったわけです。それで、日本統治時代の曲をいろいろ聴いてみましたが、どれもちょっと違うという気がしました。そのうちに、ふと『野ばら』のことを思い出したんです。子どものころから中国語の歌詞のついた台湾版の『野ばら』になじんでいたのですが、確か日本語の歌詞もついていたなあと思って、いろいろ調べていたら、なんと世界中でいろいろな言葉に訳されている歌だということがわかりました。台湾や日本だけでなく世界中で親しまれているという点が気に入ったんです。それにメロディが簡単で歌いやすいし、歌詞も単純な恋のことを歌っているので、恋についての原点に戻るような感じもあったからです。最後の場面にこれを選んだことを、今では満足しています」
Q:主役のファン・イーチェンさんは、この作品によって、「バラード王子」という従来のイメージが大きく変わったと思いますし、優しくてしとやかな印象の田中千絵さんは、気の強い友子を演じました。監督は、俳優から、これまでと違う新たな面を引き出す演出方法を得意とされているように思うのですが。
監督「田中さん本人は、確かに優しくてしとやかなイメージですが、彼女の経歴を見て、女優として、これまでと全く違った役に挑戦してくれるのではないかと思いましたし、実際に彼女と会って話してみて、きっとその要求に応えてくれるだろうと信じて起用しました。
ファン・イーチェンの場合はそれとは違います。主役の阿嘉役を探しているときに、友だちから彼のことを紹介されたのですが、バラード歌手とロック歌手では、ずいぶんイメージが違うので、気が進まなかったのです。でも僕が最初に気に入った人は、この映画にどうしても出ることができなかったので、ファンさんと話してみることにしました。初対面のときに、ジーンズにサンダルという格好でやってきたので、ビックリしましたね。それから話しているうちに、実は彼の中にはロック魂があるのに、レコード会社の方針でバラード歌手としてのイメージが作られてきたんだということがわかってきました。それで、彼の中に秘められていたロック魂を引き出すことができれば、絶対この役は成功すると思って彼に決めたんです。
それにファン・イーチェン自身ちょうど低迷期に入っているところでしたから、阿嘉の役にはぴったりだったといえます。実は彼だけでなく、ダダ(大大)とボー(茂)じいさん以外、バンドのメンバーに起用された人たちは皆、僕自身も含めて人生の低迷期に入っていたんですけれどね(笑)」
Q:この映画では、ミュージシャンのほか、ボーじいさんやダダのように、プロの俳優ではない人たちを多数起用していますね?
監督「まず、バンドメンバーをキャスティングするにあたっては、ミュージシャンであるという以外に、変化に富んだ顔ぶれにしたかったんです。たとえば、老人もいれば子どももいる、台湾には様々なエスニック集団があるので、客家や原住民の人たちもいるといった具合です。種々雑多でばらばらなバンドのメンバーが、最後はひとつに調和するというのが目的ですから、いろいろな要素が必要だったのです。
ボーじいさん役は、恒春に月琴の名手の老人がいるというので会いに行ったのですが、その人とはコミュニケーションがうまくとれなかったので、次にリン・ゾンレン(林宗仁)さんを紹介してもらいました。最初の印象は会社の社長さんみたいで、ボーじいさんとは感じが違うなと思いました。でも本人は映画出演にとても積極的で、どんな要求にも応じるというので、ためしに髪を短くしてサンダルを履いてもらったら、とても雰囲気が出てきたので、出てもらうことにしたんです。
ダダ役のマイズ(麥子)は、実際には楽器が演奏できないので、ピアノを弾く場面は全て代役です。ピアノが弾ける女の子というと、教養のある家庭で育ったおとなしい子が多いんですが、それだと、この役には合わないなあと思っていました。マイズは普通の小学校ではなく、フリースクールのようなところに通っていたのですが、最初に会ったとき、いろんなお話をしてあげたところ、なんと途中で寝てしまって、僕の面目は丸つぶれだったんです(笑)。周りのことを何も気にせず、全く自由気ままにふるまっていて、ダダの役そのもののような感じでしたね」(続きを読む)
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