独自の世界を描いたイム・サンス監督
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衝撃作『ハウスメイド』の
裏側にせまる
−イム・サンス(監督)
名作『下女』のリメイクに挑み、独自の作品を創りあげたイム・サンス監督。主演のチョン・ドヨンをも悩ませた監督の本作に込めた思いを、俳優たちとのエピソードも交えて語ります。
Q:キム・ギヨン監督の『下女』を初めてご覧になった時の感想は?
監督「まあまあかなと思いました。韓国でこの話をして、『生意気だ』と非難されましたが、これは率直な気持ちなので偽れません。ただ、歴史に残る作品であることは事実です。それを超えてみたいという抱負をもって臨みました」
Q:リメイクの監督を依頼されて、どう思われましたか?
監督「リメイクに興味はないですが、キム・ギヨン監督という人間そのものには関心があるので、彼の人間の部分についてであれば撮りたいと答えました。最終的に、脚本と演出は100%自由にさせてくれることを条件に引き受けました」
Q:オリジナルから引き継ごうと思われた点は?
チョン「韓国社会の階級問題を正面から描くことです。『下女』が製作されたのは、1960年です。当時、韓国は初めて中産階級ができつつあり、田舎から出てきた、若く貧しい女性が、中産階級の家で住み込みのメイドとして働いたりしました。今は、住み込みのメイドを雇っているのは、韓国全体の1%くらいの富裕層の人たちだけです。彼らは現代の韓国社会の問題の重要なカギを握っているので、『ハウスメイド』では、そこを描きたかった。
また、主人公のウニは、過去20年間にわたる新自由主義による経済発展が生んだ人物です。以前は中産階級の主婦だった女性たちが、中産階級が崩壊したことによって、仕事をしなければならなくなったのです。そういった実状が非常に重要だと思ったので、映画の中に取り入れました」
Q:主演のチョン・ドヨンの演技はいかがでしたか?
監督「チョン・ドヨンは、自分の感情を非常に重要視する女優です。ところが私は、感情を排除した演技パターンが好きなので、ドヨンとの間では少し開きがありました。また、私はセットに合わせて撮っていくのですが、ドヨンは順撮りの方が自分の演技スタイルに合っているという主張を持っていたので、その点でも葛藤がありました。
結局、ドヨンは私のやり方についてきてくれたのですが、撮影の途中に彼女が『自分は今何をやっているのか分からない』と泣き出したことがありました。ドヨンは『最後まで監督についていきますから、絶対にいい映画を撮ってください。もしもいい映画が撮れなかったら、その時は許しませんよ』と言いました。私は『もちろんいい映画を撮りますよ』と答えました。
ドヨンは頑張っていましたが、おそらく不安を抱えていたのでしょう。しかしよく考えてみると、芸術家が映画を気楽に撮るのは怠惰です。本当の一級の芸術家は、常に自分を疑い、不安に思うでしょう。そういう意味では、ドヨンはまさに一級の芸術家だったのだと思います」
Q:イ・ジョンジェさんはいかがでしたか?
監督「キャスティングの段階で、フン役にイ・ジョンジェは考えていませんでした。ジョンジェクラスの俳優が演じるには、小さい役だと思ったからです。フン役は新人俳優に演じてもおうと数十人にあたったのですが、断られました。その時、以前ジョンジェと会った際に、『ハウスメイド』のシナリオを読んだのですが、フンという役はすごく魅力的ですね、と言ってくれたことを思い出しました。
ジョンジェは『どんなに小さな役でもせひやりたい。イム・サンス監督と一緒に映画を撮りたい。ギャランティも気にしていない』と言ってくれました。これは自画自賛になってしまいますが、今までジョンジェの演じた中で一番良い役になったと思います。そして、フン役を断った新人俳優たちが、ジョンジェの演技を見て何か1つでも学んでほしいと思います」
観客の皆さんにメッセージをお願いします。
監督「この映画は、テレビの連続ドラマのような、ありふれた題材を扱っています。私にとってこの映画は、ありふれた物語を一瞬たりとも緊張を緩めずに、いかにして最後まで撮るかという挑戦でした。事前に、ヒッチコック監督のサスペンスを観て研究しました。おそらく集中力を逃さない作品に仕上がったと思います。また、官能的な作品でもあります。さらに、2010年における韓国社会の重要な問題も取り扱っています。資本主義社会の中で見られる、お金のある人がない人に対して侮辱する行為も描いています。いろいろな切り口があるので、皆さんの好みでご覧ください」
(インタビュー&素材提供:ギャガ)
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