幸運な俳優デビューで人生が変わったダーチン
|
運命に導かれ俳優の道へ −ダーチン(大慶)
4月20日より絶賛公開中の『セデック・バレ』2部作。その第1部「太陽旗」で大きな印象を残すのが、冒頭から前半にかけて登場するダーチン(大慶)です。若き日の主人公モーナ・ルダオが成人して結婚し、父の死を経て部族の頭目を継ぎ、突然やって来た日本軍に激しく抗いながらも、ついには捕えられてしまうまでを、これが演技初体験とは思えないリアルさで演じています。それもそのはず。ダーチン自身が、台湾原住民族であるタイヤル族の出身。その精悍な風貌とイメージが監督の眼にとまり、大勢の原住民出身者オーディションの中から主役に抜擢されたのでした。
2011年の『セデック・バレ』で俳優としての幸運なデビューを飾り、以後もテレビドラマや映画で新人俳優としての道を歩み続けているダーチン。3月初旬にプロモーションのため、ウェイ・ダーション監督と共に来日した時の独占インタビューをご紹介します。
●演技未経験で主役に抜擢
アジクロのインタビューは取材初日の1回目。映画での野性的なモーナ・ルダオのイメージに圧倒されていたので、当日はドキドキとやや緊張気味だったのですが、取材部屋にやって来たダーチンは、あたりまえだけど、映画とはうって変わった穏やかなやさしい笑顔の青年でした。そして新人らしく、回答内容も素直で誠実。1つ1つを丁寧に答えてくれるので、残念ながら用意した質問の半分ほどしかできませんでしたが、そんなダーチンの素朴な素顔を感じていただけたらと思います。
Q:日本は初めてですか?
ダーチン「2度目です。最初は2年前の東京国際映画祭(公式上映ではなく、併設のマーケットまたはフォーラムへの参加)でした。台湾でのいろんな日本の映画を宣伝するプロジェクトがあり、その会社の一員として参加しました。その時は、映画祭を観ながら東京で遊んだりしました」
Q:今回も遊ぶ計画はありますか?
ダーチン「明日で取材が終る予定なので、明後日はこの近くで遊ぼうと思ってます(笑)」
長身と精悍な風貌はモデルにもぴったり
|
Q:この映画で初めて俳優になられたそうですが、それ以前は何をしていたのですか?
ダーチン「トラックの運転手をしていました。『セデック・バレ』のオーディションを台湾全土でやるというのは聞いていたけれど、ちょうど僕が住んでいる集落にもそのニュースが伝わって、家族が出てみないかと。それで、仕事がお休みの時に、キャスティングのオーディションに参加することになり、写真を撮ったり、いろんな資料を揃えたりしました。その後でカメラテストに参加して、この役をいただいたのです」
Q:俳優になりたいとは思っていたのですか?
ダーチン「小さい頃は、よく香港映画を観ていたのですが、その影響は大きかったですね。特に銃撃戦のある面白いギャング映画とか、そういうのを楽しんで観ていました。でも、僕たちは山の集落に住んでいる原住民なので、映画の世界と接触する機会はほぼなかったのです。
それが10数年経って、ウェイ・ダーション監督が『セデック・バレ』という台湾映画史上今までになかった素晴らしい大作を撮ることになり、しかも主人公、テーマが原住民だった。原住民の一人として、この映画は自分たちが演じるのにぴったりの作品だと思いました。10数年前の子どもの頃の夢が、監督との縁で実現に向った。そこから、徐々に映画や俳優に興味が出てきて、俳優をやってみたくなりました。俳優という職業が好きになってきたのです。僕にとっては人生での大きなチャレンジでしたが、やはり自分の人生や未来を変える、過去を変えて新しい未来を作る、素晴らしい職業だと思えてきたんです」
Q:最初に主役に決まった時のお気持ちはいかがでしたか?
ダーチン「最初はキャスティングで何人かが残り、当時、何人かのグループで3ヶ月くらいのトレーニングを受けました。その時は、どういう役を演るのか誰も知らなかった。記者発表の1、2週間前になってやっと、この映画の主役がモーナ・ルダオだとわかりました。このモーナ・ルダオの役を、これから僕たちの中の誰かが選ばれて演じるんだなとやっとわかったのです。全員知らなかったことなので、皆がとても興味を持ち、ぜひやりたいと思っていました。
素顔は素朴でやさしい大人の男性でした
|
だから、記者発表でモーナ・ルダオを演じるのが自分だとわかった時は、とてもうれしかったです。でも、その反面、責任もずっしりと重く感じました。やはり主役で、この映画の鍵となるわけですから、この役をちゃんとやれるかどうか、気分的にはとてもプレッシャーを感じました。それに、周りのいろんな人たちが、素人の原住民である僕たちが主役のモーナ・ルダオを演じられるかどうかちょっと疑問だ、と話していることも伝え聞いていたので、それもプレッシャーでした。
でも、ウェイ・ダーション監督はとてもよい指導方法で教えてくれました。また、とても我慢強い方で、いろんな面を熱心に細かい点まで指導してくれた。監督のおかげで、自信を持ってモーナ・ルダオを演じることができました」
と、つい熱がこもったのか、一気に答えてくれたダーチン。「長過ぎましたね」と通訳の渋谷さんに気を遣っておりました。大丈夫ですよ、渋谷さんはベテランですから。この辺りの監督による演技の引き出し方については、監督インタビューにてご紹介します。(次頁へ続く)
続きを読む 1 > 2 ▼記者会見 ▼監督インタビュー ▼映画紹介
|