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asicro interview 61

更新日:2014.11.10

これまでとはまったく違う、面白くて珍しい作品にしたかった
 −バンジョン・ピサンタナクーン(監督)

 2013年、世界中で大ヒット記録を打ち立てた『アバター』や『アナと雪の女王』を押し退けて、タイで歴代No.1メガヒット作になったのが『愛しのゴースト』です。お話の元になっているのは、タイ人なら誰もが知っている怪談民話「プラカノーンのメー・ナーク」。99年に名匠ノンスィー・ニミブット監督が民話を忠実に映画化した『ナン・ナーク』も大ヒットしましたが、本作では基本ストーリーはそのままに大胆なアレンジがなされており、恐いけど笑えるロマンティックなラブストーリーに変身。現代的な視点や演出を盛り込んで、若者からお年寄りまでが楽しめるエンターテインメント大作に生まれ変わったのでした。

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 そんな『愛しのゴースト』を監督したバンジョン・ピサンタナクーンが9月に来日。単独インタビューを行なうことができました。知的で物静かなポーカーフェイスでありながら、ときおりいたずらっぽい顔ものぞかせる監督。作品について、監督について、タイ映画界について…貴重なお話がたくさん聞けましたので、まとめてご紹介します。

●『愛しのゴースト』について

Q:昨夜(9/14)は、したまちコメディ映画祭 in 台東の特別招待作品として上映されましたが、観客の反応はいかがでしたか?

 監督「なかなかよかったです。福岡(アジアフォーカス・福岡国際映画祭2013)、京都(京都ヒストリカ国際映画祭2013)、東京(したまちコメディ映画祭 in 台東)と続いて来て、だんだん反応がよくなっています」

Q:ホラー作品を多く手がけていますが、前作『アンニョン!君の名は』はラブストーリーで、今回はホラーとラブストーリーとコメディが組み合わさった集大成ですね?

 監督「最初はコメディを撮るつもりでした。ただ、物語には怖くはないけどホラー要素が入っていたし、脚本を何度も書き直していたら、愛の要素も強いとわかり、気がついたら3つが混じっていたという感じです。最初から意図したのではありません」

Q:原題は『ピー・マーク』ですが、これは主人公がマークだからですか? また「ピー」にはゴーストの意味のピーも含まれているのですか?

 監督「言葉遊びはしておらず、単純に『お兄さん』という意味での『ピー』です。主人公については、最初はナークとマークは同じ比重だったのですが、やはりマークの視点で愛を語っているので、結局はマークが主人公ということになりますね」

Q:マークはアメリカ人の宣教師の息子なので、ハーフという設定ですね?

 監督「誰とも違うマークにしたかったんです(笑)。ユーモラスにしたかったので、名前も『マーク』ではなくて、欧米発音での『Mark』にしていて、ギャグになってます(笑)」

Q:息子の「デーン」はジェームス・ディーンの「ディーン」から?

 監督「これはタイの名前です。民話での息子の名前が『デーン』。タイ語で『赤』という意味です。昔風の古めかしい名前ですね」

 それで「イケてない」と言われたんですね。

 監督「そうです(笑)」

Q:皆さんの歯が黒いのは、当時の習慣なのですか?

 監督「ビンロウ樹の実を噛んで歯を黒く染めています。当時は、黒い方が美男美女でした」

Q:セリフが現代風ですが、これは今の若い世代を意識したのでしょうか?

 監督「他の『メー・ナーク』作品とは違う、珍しくて面白いものにしたいと思い、現代語調にしました」

Q:今回のナークは長い黒髪で、色が白くて、髪が短かった『ナン・ナーク』とは違います。最近のゴーストストーリーでは長い黒髪が定番ですが、意図的にそうされたのですか?

 監督「髪を長くしておしとやかに見せたかったのです。『ナン・ナーク』の時代は、女性の髪が皆短かったので、歴史に忠実に作っていますが、僕は自分の思い描くナークにしました。他の作品とは関係ありません」

●タイで大ヒットした理由

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(c)2013 GMM Tai Hub Co., Ltd.

Q:タイでは世界的にヒットした『アナと雪の女王』を抜いての大ヒットになりましたが、その理由は何だと思いますか?

 監督「やはりタイ人がすごく感動したからでしょう。もちろん、誰もが知っている素材ということもありますが、面白さがとてもウケて、手を叩いて大笑いしたり、時には立ち上がるほど興奮するという現象もありました。また、新しい解釈でのハッピーエンディングがとても皆に気に入られ、そのおかげで口コミでも広がったようです」

Q:若者だけではなく、老若男女すべての世代に受け入れられたということでしょうか?

 監督「最初の2週間は、若者や会社勤めの若い人たちに面白さがウケていたのですが、3週目が4月のタイ正月にぶつかりました。劇場へ行ってみると、60代や70代といった、今まで劇場に一度も行ったことのないような人まで来ていて、とても驚きました」

Q:タイ映画というとこわいホラーのイメージが強いですが、この作品はあまり怖くない。怖そうな音や音楽が出て来るけれども、怖い場面はあまりありません。そういうところが安心して観られるので、お年寄りにもウケたのでは?

 監督「それもあると思いますね。どんな世代も男女を問わず観られると思います」

Q:ハッピーエンディングがうれしいですが、通常のゴーストストーリーだと、最後はたいていゴーストが退治されて去って行きますよね?

 監督「これは新しい解釈だと思います。こんなに愛しあっていて、他人に迷惑をかけないんだったら、一緒にいてもいいんじゃないか、という単純な発想です」

Q:このエンディングが受け入れられたのですね?

 監督「大ヒットの要因はまさにここだと思います。すごくサプライズだったし、ここが気に入られた点だと思います」(次頁へ続く)


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profile
バンジョン・
ピサンタナクーン
Banjong Pisanthanakun


1979年9月9日生まれ。チュラロンコーン大学で映画を学び、99年に卒業。2000年、初の短編『Plae Kao』、続く『Color Blind』で、国内外で注目される。この頃から、映画評論家としても活動を始める。

04年に共同監督で手がけた初の長編『心霊写真』が大ヒット。国外でも大成功を収め、08年には『シャッター』としてハリウッド・リメイクされている。10年の『アンニョン!君の名は』はその年のNo.1ヒットとなり、国外でも好評。大阪アジアン映画祭2011で「来るべき才能賞」「ABC賞」を受賞した。

13年の本作はタイの歴代興行収入No.1に輝いた。監督業以外でも幅広く活躍。ラジオFMで2時間ラジオ番組のDJを務める他、多数のCMに声優として参加。CMの演出も多数手がけている。
filmography
短編作品
・Plae Kao(2000)
・Color Blind(02)
・シー・プレン/4BIA(08)
 「In The Middle」
 *4人の監督による
  オムニバス作品
・5 プレン/Phobia 2(09)
 「In The End」
 *5人の監督による
  オムニバス作品
・The ABCs of Death(12)
 「N is for Nuptials」
 *27人の監督による
  オムニバス短編集

長編作品
心霊写真(04)
 *パークプム・ウォンプムと
  共同監督
・Alone(07)
アンニョン!君の名は(10)
愛しのゴースト(13)