Q:日本で先に公開された理由は?
監督「この映画は三島由紀夫に影響を受けています。ある人から言われて、彼の作品を読み返したことからインスパイアされたんです。なので、やはり三島由紀夫にオマージュを捧げるべきだと思い、日本で最初に公開しました」
Q:登場人物の教授は、最初はとても遊び人に見えますが、最後には、奥さんと若者カップルと4人での親密で閉じた関係に入っていきますね。
監督「そうなんです。アメリカの映画祭などで上映されると、パンセクシュアルに分類されてしまうんですが、私にとっては、実際は4人だけの王国のことなんです。ふさわしい人を見つけたら、その人との世界を作り上げていく。それこそがユートピア。だから、この作品を作りました。必ずしも対象が大勢である必要はないと。この作品でいえば、彼らをつなげているのは文学や音楽。芸術ですね」
Q:監督の作品には、たくさんの裸が出てきます。でも、不思議といやらしい感じはなく、例えばローマの浴場や日本の銭湯のように、自然に撮られていて、明るさがあります。意図的に明るく撮っているんですか?
監督「そうです。私にとっては、それが自然なんです。むしろ、服に執着している人を見ると驚きますね。私は人間としての肉体にこだわっているのです。実際、誰かを好きになると、自然にその人の心が好きになり、身体も好きになる。服じゃないですよね? あなたが好きで、あなたの服が好きだけど、身体は嫌いなんてことはないでしょう?」
Q:『ユートピア』は『ボヤージュ』に比べるとシンプルでわかりやすい作品ですね。女性の視点も入っています。
監督「他の作品もそうなんですが、多くの観客の皆さんは女性の視点が印象に残るようです。母親とか、姉とか、時にはガールフレンドとか…。母親はいつも描いていて、実際に一番多く登場しています」
『ユートピア』での主人公と母親
| |
『ユートピア』では男女の夫婦愛も描かれている
|
Q:『ボヤージュ』では、スーザン・ショウ(邵音音)さんでしたね。
監督「『ボヤージュ』での母親は占い師として登場しますし、『ユートピア』にも母親が出てきますよね。映画の中では、母親が一番印象的だとよく言われます(笑)」
興味深いキャスティングと次回作
スカッド監督の映画といえば、スーザン・ショウやウォン・ヘイ(王喜)など、往年のスター俳優が出演しているのも気になるところ。次回作『三十儿立/Thirty Years of Adonis』では、アドニス(賀飛)と並んで、なんとノラ・ミャオ(苗可秀)がクレジットされています。
Q:香港の昔のビッグスターをよく起用しておられるのはなぜですか?
監督「皆、友人なんです。昔からご縁がある方ばかりです。例えばスーザンですが、『ボヤージュ』の占い師役として可能性のあるベテラン女優を探したけどピンと来る人がいませんでした。それでブレストをしていた時、たまたま、スーザンのことが頭に浮かんだんです。『彼女しかいない!』と直感し、すぐスーザンに連絡しました。彼女は喜んでいましたが「昨日あなたのアシスタントから電話があったので、一晩中眠れなかったのよ。監督が私をどう使おうとしているのか気になっちゃって。脱がなくちゃいけないの?」と緊張してました(笑)。
俳優にとって私の作品に出る魅力は、普段できないことができるからのようです。こういう作品を作っている人はあまりいませんからね。俳優心をくすぐるところがあるのでしょう。ただ、皆が次の作品にも出たいと言ってくれて、いつも全員を使うわけにはいかないので、そういうジレンマはあります」
Q:次の作品(『三十儿立/Thirty Years of Adonis』)は台湾で撮影されたんですよね?
監督「大部分は台湾で撮影しました。それから香港とインドネシアでも」
Q:主役はアドニスさんですが、今度はどんなストーリーなんですか?
監督「実は『ユートピア』は私が今まで撮ったことのない、一番ハッピーな映画なんです。『ボヤージュ』は私らしい作品。『ユートピア』ではテーブルに座ってブランチを楽しんでいるけど、次のアドニスは過去の作品世界に戻っていきます。これは輪廻転生やチベット仏教、堕落した男のセックスワーカー(売春夫)の物語です」
Q:『ユートピア』とつながっているのですか?
監督「つながってはいないけれど、私の映画をたくさん観ているファンからは、前作とつながっているとよく言われますね。前の作品で小さな役だった人が、次に出てきたりと。意図した訳ではないけど、私の中ではどれも同じ物語なので、徐々につながっているのかもしれません。これからもどんどん作品を作っていく内に、最終的にはつながっていたということになるかもしれませんね。仏教的な観点から言えば、前の作品の主人公が何度も生まれ変わっているという見方もできるでしょう」
上:『ユートピア』に続いて主演するアドニス
右:スーザン・ショウは次回作にも出演
| |
|
取材当時、「すでに編集は終わり、予告編ができたばかり」ということで、YouTubeにアップロードされている予告編を見せていただきました。スーザン・ショウやアマンダ・リー(李惠*敏)も出演しているようで、どんな展開になるのか気になります。
これからの活動と日本での撮影
今回、取材させていただいたのは、オープンしたばかりの自社ビル。小さなシアターも併設されており、会員制のフィルムクラブを作って、アートフィルムやインディーズの映画を上映したり、アーティストや映画ファンに場所を貸して、作品を発表できる場にしたいとのこと。
Q:日本にも事務所を作られましたが、今後は日本でも活動されるのですか?
監督「基本的に日本は一番好きな国なので、映画とは関係なく何度も来ています。年に5、6回。東京から入ったり、大阪から入ったり。ご存知のように香港はああいう状況なので、時代的にも、私にとってもう香港に拠点を置く必要はなくなりました。日本にいる方がもっと楽しいので、日本の友人たちは「いつ日本で映画を撮るんだ?」と尋ねるんです。ただ、もっと日本のことを知りたいので、拠点を置くことにしました。外国人が外国人の目で見たヘンテコな日本の映画を作りたくはないので」
Q:香港、台湾、日本…と、あちこちに拠点があるんですね。
監督「私の名前(雲翔)は「雲」という意味。雲はあちこち漂っていて家がありませんから、今はそんな感じですね(笑)」
Q:日本で撮りたい作品はもうあるのですか?
監督「まだ、脚本ができていません。必ず1本は撮りたいと思っていますが、具体的になるまでにはもっと時間が必要です」
Q:日本の俳優で一緒に撮影してみたい人はいますか?
監督「もちろん。『紙の月』に出ていた宮沢りえさんがいいですね」
Q:今後もゲイの作品を撮り続けていきますか?
監督「先のことは何も考えていません。いつも感覚的に作りたい映画を撮っているので」
Q:では、違うタイプの作品が出てくる可能性もあるということですね?
監督「あります。でも、あまり人を驚かせるつもりはないので、この路線でいくでしょう」
インタビュー終了後、監督から日本未公開の初期4作品のDVDをいただきました。いずれも、SCUD監督の世界を知るには見逃せない作品ばかりです。特に重要なのは2作目の『永久居留』と3作目の『アンフェタミン』。『永久居留』はまさに監督の自伝的作品で、祖母に育てられた少年時代からIT業界で成功し、映画監督としても名を成していく主人公の悲恋を綴ったもの。オスマン・ハン扮するストレートの青年を一途に愛したゲイの主人公が亡くなるまでの近未来も描いてあり、興味深いです。『ユートピア』で教授を演じていた監督作の常連俳優ジャッキー・チョウ(周徳邦)さんもユニークな役柄で登場。このジャッキーさんは『無野の城』が俳優デビュー。元野球の香港代表チームで三塁手をしていた方です。
『永久居留/Permanent Residence』
| |
上・下『アンフェタミン/安非他命/Amphetamine』
|
『アンフェタミン』はトム・プライス(白梓軒)とバイロン・パンというイケメン二人が主演した『永久居留』の変奏曲。映像はさらにアーティスティックになっています。オーストラリアからやって来たゲイ、というよりバイ・セクシャルの青年がストレートの水泳コーチと出会い、愛を育んでいくというもの。特に「カフカ」という名の青年を演じるバイロン・パンが出色で、金像奨の新人俳優賞にノミネートされたのも納得です。ヌードシーンも満載ですが、映像が美しく、若い二人の爽やかさやせつなさが印象に残ります。10年の関西クィア映画祭にて上映されていますので、ぜひ一般公開もしくは日本語字幕付でリリースしてほしいものです。
SCUD監督といえば「たくさんの裸が出てくる映画」というイメージが先に来てしまいますが、男女を問わず、人間の細かい感情を描ける監督なので、普通の人間ドラマ、例えば台湾メディアが触れていた監督の祖父母にまつわる物語などでも、きっとよい作品ができることでしょう。これからの雲の行方を見守っていきたいと思います。
(2017年3月13日 SCUD監督の青山オフィスにて単独インタビュー)
*取材協力:ミューズ・プランニング/イク・モハメッド(ジョルト)
前ページを読む P1 < P2 ▼『ボヤージュ』作品紹介 ▼『ユートピア』作品紹介
|