logo


asicro interview 77

更新日:2018.5.22

p1

初めての映画に挑戦したキーレン・パン監督
新しい一歩を踏み出して欲しい
 ー キーレン・パン(彭秀慧)

 5月19日より日本公開がスタートした『29歳問題』。人生の転機を迎えた対象的な2人の若い女性を主人公に、自分を見つめ直して人生をリセットし、新たな一歩を踏み出す姿が描かれています。さらに映画には、幸せに生きるコツや、自分と正直に向き合うことの大切さなど、生きるためのヒントもたくさんあり。何も起こらなければ忘れている大切なこと、人生につまづいて初めて気づく自分の本当の気持ちなど、29歳という年齢に関わらず、男女を問わず、人生の節目を迎えたすべての人々の心に響くことでしょう。

 そんな本作を監督したのが、本作で映画監督デビューを飾ったキーレン・パン(彭秀慧)。香港で最も有名な舞台女優であり、舞台演出家です。その彼女が2005年に自身のプロダクションを立ち上げ、自作自演で初めての一人芝居を行ったのが、映画の原作となっている「29+1」。舞台は好評を博し、2013年までに6回の公演を行っています。その一方で、2006年にはパン・ホーチョン監督の『イザベラ』で脚本を共同執筆。映画の世界ともつながりができ、舞台の映画化の話が出たのは2006年のことでした。その時は映画にするなんて考えてもいなかったそうですが、40代になって再び映画化の話が浮上。自から監督・脚本を担当することで本作が誕生したのでした。

 そのキーレン・パン監督が、映画公開前の4月に来日。単独インタビューをすることができました。実際にお会いしたキーレン・パン監督は、ご覧のように、女優と呼ぶのがふさわしい美女。クロスメディア・クリエーターの肩書きも持つ彼女は、すべてを自分の手でやってしまいたいという強い意志を持つ、凛とした女性でもあります。来日直前の4月15日には香港電影金像奨の授賞式があり、キーレン・パン監督は見事、新人監督賞を受賞しました。まずはお祝いの言葉からスタートです。

初めての映画監督と舞台の違い

Q:新人監督賞の受賞、おめでとうございます! 本作で初めて映画の監督をされたわけですが、感想はいかがですか?

監督「ありがとうございます。撮影している時はとても不安でした。一体どんな風になるんだろう? ちゃんと映画になるんだろうか?…と。でも、なんとか最後まで頑張って撮影し、完成させました。できあがってみると、ちゃんと仕上がっていてとても満足しています。やり遂げた感があります」

Q:ずっと舞台をやっていらっしゃいますが、舞台と映画との違いは?

監督「映画はたくさんのスタッフや俳優と一緒につくりあげるもので、そこが一番違います」

Q:10年前に映画化をオファーされた時は断ったそうですが、10年後に映画を撮ることにした理由は?

監督「実はこの舞台は2013年で上演を止めることにしていました。40歳になったので、そこからはまた新しいことを始めようと思ったのです。次の舞台をやる予定で場所を探していたのですが、どこもいっぱいで見つからず、時間がぽっかりと空いてしまいました。そこで、映画をやってみようという気になったのです。それまでに、他の仕事で映画界の人たちとのつながりもできていましたから」

Q:(『イザベラ』の)パン・ホーチョン監督からオファーがあったのですか?

監督「オファーされたからではなく、自分でやってみようという気になったのです。製作会社が決まっていたので、それならできるだろうと思ったわけです」

p2

女優さんだけに主演のクリッシー・チャウと似ています

Q:キーレンさんにとっても新たな出発だったわけですね。もともとは、一人芝居だったそうですが、一人芝居にした理由は?

監督「お金がなかったから(笑)。スタッフや道具を揃える予算がなかったので、全部自前でやることにしたんです。それに、誰かと組んで演技を比べられ『下手くそ』と言われるのも嫌だった。自分一人でやれば、誰からも文句を言われないでしょ(笑)」

Q:残念ながら舞台を観ていないので違いがわかりませんが、舞台と映画では表現方法も違ってきます。脚本も変わってきますよね? 違う部分はどういうところですか?

監督「そうなんです。映画では主人公たちの部屋など、ディテールに凝ることができました」

Q:登場人物やエピソードも増えますよね?

監督「舞台には女社長も友人たちも、大家さんやタクシー運転手も出てきません。クリスティとティンロを演じる私と、ヨン・チーホウとチョン・ホンミンを演じる男性2人だけです。エレイン・ジン(金燕玲)さんが演じた女社長を出したのは、彼女がクリスティにとって鏡の役割をするからです。クリスティが目指す生き方の見本として。女社長と対峙することで、彼女はこれでいいのかと自分の生き方を振り返ります。

m1

クリスティの決断に女社長(エレイン・ジン)も自らの人生の歩みを語ってくれる

(c)2017 China 3D Digital Entertainment Limited

 大家さんやタクシー運転手は、クリスティとティンロを結ぶ媒介のような役割。2人とも同じタクシーに乗っていたことが後でわかります。彼女たちはティンロが働いているレコード店でも会っています。クリスティは友人へのプレゼントに、ウォン・カーウァイ(王家衛)の『花様年華』のサイン入りポスターを買いに行っています」

m7

パリへ旅立つためティンロはタクシーで空港へ。運転手を演じるのはエリック・コット。

(c)2017 China 3D Digital Entertainment Limited

Q:通勤バスの中でも会っていますよね。最後に、実は2人が何度も出会っていたことがわかり、面白かったです。 ストーリーは、やはりご自身の経験から作られたのでしょうか?

監督「違います。私が電話で父と約束したという話をしたら、スタッフの女の子がすごくびっくりしたんです。彼女は私の父がまだ生きていると思っていなかったんですね(笑)。映画はあくまで、私が想像して創り上げたお話です」(次頁へ続く)


続きを読む P1 > P2 > P3 ▼『29歳問題』作品紹介 

▼back numbers
profile
キーレン・パン
Kearen Pang
彭秀慧/Pang Sau-Wai


1975年2月11日、香港生まれ。舞台女優、舞台演出家、クロスメディア・クリエーター、作家、脚本家として活躍。香港演芸学院・表演学科を卒業。1988年に香港で最も古い歴史を持つ「忠英劇団」の専属俳優となり、舞台演出、作曲、振付、プロデューサーなどを務める。

2003年に退団。2004年に香港戯劇協会の奨学金で、パリの演劇学校スタジオ・マニュジアで学ぶ。2005年、香港にキーレン・パンズプロダクションを設立して、数々の舞台を手がける。2005年に発表した初の一人芝居「29+1」は高い評価を得て、2013年までに計6回の再演を行っている。2010年に一人芝居「再見不再見」で香港戯劇協会舞台劇奨最優秀主演女優賞を受賞。

2006年にパン・ホーチョン監督の『イザベラ』の脚本を共同執筆。映画界と繋がる。同作のノベライズ本も執筆した。2017年に『29歳問題』(29+1)で監督デビュー。ニース国際映画祭2017で外国語映画最優秀監督賞を受賞。その後も多数の新人監督賞を受賞する。

2011年に香港電台と香港戯劇協会似寄り「この20年間最もインプレッシブな女優」に選出。2014年には優れた若者を表彰する「香港十大傑出青年」に選ばれている。
filmography & works
movie(出演)
・追凶20年(98)
・創業玩家(00)
・ユー・シュート、
 アイ・シュート(01)
・些細なこと(07)*声の出演
・低俗喜劇(12)

movie(監督)
24歳問題(17)

stage
・29+1(05)
・再見不再見(07)
・不眠優仁(08)
・月球下的人(09)
・點解手牽狗(10)
・Tiffany(12)
関連リンク
Instagram
Facebook
クリッシー・チャウ Facebook
ジョイス・チェン Facebook
 *リディア・サムの写真もアッ
  プされています。