円満な結末というものはない
Q:主人公のバオタイは真面目で優しい青年ですが、結果的にはラオチャンを追い詰めたり、ニーニーともうまくいかなかったりと残念なことになります。これは運命ということでしょうか?
監督「そう。まさしく運命に翻弄された人生です。また歴史においては、ある種の残酷さもある。そういうものだと思います。まあ、我々の人生も同じようなものですね。縁が現れることもあれば、消えることもある。よくあることです。
今までいろいろ交流もあって仲良くつきあっていた友達やパートナー、影響を与えてくれていた人と、だんだん付き合いがなくなり、連絡も取れなくなる。それはよくあること。だから、円満な結末というのはないと思うんです。僕たちにとって大事なのは、今ですから」
Q:最後に、こうなっていたかもしれないという場面が挿入されていますが、あれはもう1つの可能性を対照的に見せているのでしょうか?
監督「さあ、どうでしょう。まあ、これも自然のなりゆきですね。ああいう風に映画の中に取り入れたのは、自分の経験からくるものかもしれないし、ドラマや映画の演出でいろんな訓練を受けたこともあるので、そうしたのかもしれない。あるいは、この2つの物語は同時進行しているかもしれません。いろんな可能性があります。でも、ほんとうに、ああいう結末の方がよかったと思う?」
Q:いえ。あれは夢みたいなものかなあと捉えています。
監督「そうなんです。ああいう風に処理をしたのは、僕から彼らへの祝福と捉えてもいいでしょう。あるいは、歴史の展開がああでなければ、彼らの人生の結果は違っていたかもしれない。たとえば、今の僕。もし『軍中楽園』にもう一度取り組むとなれば、多分、結末がまた違う風になっているかもしれません。やはり、その時、その時というのがありますから。監督としては、観客の皆さんには独自の見解、考え方や理解を持って欲しいですね」
Q:いろんな見方があっていいということですね?
監督「その通りです。その方が絶対面白いと思います」
Q:大陸へ泳いで逃げたふたりは、もしかしたら助かったんじゃないかと思うんですが、それも、あり得る?
監督「だけど、大陸へ逃げたとはいえ、それからが大変だよ(笑)。70年代の中国大陸の環境はもっと厳しいかもしれない。まあ、何を持って円満とするかですね。世俗的な考え方の円満はこうだ、ああだ、とあるけど、僕にとっては1つの表象に過ぎません。結局、僕たちもそうですが、いろんな苦労、いろんなことを経験することによって、初めて『あ、これが幸せなんだ』と思うようになるのではないでしょうか」
親友のホワシンは過酷な軍隊生活に耐えられず、シャシャと逃避する
(c)2014 Honto Production Huayi Brothers Media Litd. Oriental Digital Entertainment Co., Ltd. 1 Production Film Co. CatchPlay, Inc. Abico Film Co., Ltd.
この映画で女性の気持ちが理解できた
Q:映画をご覧になった台湾の観客の皆さんですが、男性と女性とでは反応が違いましたか?
監督「性別による感想は意識しませんでした。むしろ世代間の見方の違い、グループ(本省人、外省人、原住民)間での感想の違いを感じることはありましたね。本省人と外省人の間では、お互いの悩みや生活ぶりを見ることができましたし、若い人の間では、自分の親や祖父母の世代の悩みや苦しみを知らなかったので、映画を観て『ああ、そういうことだったのか』とわかったようです。また、かなり年上の年配の観客からは、『こんな映画を撮ってくれてほんとうにありがとう、すごくよかった』と、そういう感想はありました。
上官のラオジャンはアジャオ(チェン・イーハン)との結婚を夢見るが。
(c)2014 Honto Production Huayi Brothers Media Litd. Oriental Digital Entertainment Co., Ltd. 1 Production Film Co. CatchPlay, Inc. Abico Film Co., Ltd.
ときどき自分で思うんですが、自分の心、あるいは身体のどこかにもう一人の女性がいるような気がするんです。一緒に仕事をしている脚本家のツェン・リーティン(曹莉[女亭])は女性ですが、いつも彼女がまず脚本を書きます。僕も書きますが、実際に映画を撮る時は僕が撮るわけで、ご覧のように外見はとても粗野ですよね。でも、どこかに女心も持っていて、彼女からはいつも『あなたは私より女性よ』と言われるんです。でも、今回この映画を撮ることによって、女性の気持ちというのをよく理解することができました」
Q:ニーニーの気持ちの変化とか、表情によく現れていたと思います。
監督「女性のことがよく理解できてるんです(大笑)。全員が私の女神ですから」
他の女たちと違う孤高のニーニー(レジーナ・ワン)にバオタイは惹かれていく
(c)2014 Honto Production Huayi Brothers Media Litd. Oriental Digital Entertainment Co., Ltd. 1 Production Film Co. CatchPlay, Inc. Abico Film Co., Ltd.
Q:ニーニーが歌っていたのはマリリン・モンローの「帰らざる河」ですが、監督が選んだのですか?
監督「うーん、覚えてないな。僕だったかリーティンだったか。いつも一緒に仕事をしているので、全部一緒くたになってしまっていて。覚えているのは、小さい頃にギターを弾いて歌ったのがこの歌でした。サビのところを歌う時は歌詞を変えて『あなたのために、あなたのために、パンツを下ろして身を委ねました〜』(と歌って披露!)と男子特有の卑猥な歌を歌ってました(笑)。でも、この歌を取り入れることによって、本当はとても純情だった主人公の若者が、軍隊に入って洗礼を受けてから、だんだんスレていき、悪い奴になっていく…そういう部分が表現できたかなと思います」(続きを読む)
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