チスル(チスル/Jiseul)
story
65年前に犠牲者を出した廃屋にカメラが入り、かつてそこにいた人々、村人や軍人たちを呼び戻していく。1948年10月、韓国軍から「海岸線5kmより内陸にいる人間を暴徒とみなし、無条件で射殺せよ」という布告が出される。
戒厳令の中、逃げる仕度をする人、山に逃げ込む人、状況がよくわからない人、家族に軍人がいる人…皆、それぞれに不安を抱えて右往左往する。村人の一人が山に洞穴を見つけ、事態が収まるまで隠れていようと皆にもちかける。近隣の村で虐殺が始まり、皆は隠れることにする。
夜中に皆で洞窟をめざし、道に迷いながらもなんとか到着する。俊足の者が見張りをかって出る。夜は真っ暗闇になる狭い洞窟の中には、身重の女性もいる。食糧を暢達するため、ムドン(パク・スンドン)は自宅に戻るが、家に残った母は殺され家は焼かれていた。ムドンは悲しみを堪え、母が抱えていた芋を持ち帰る。
ハルラ山の麓の村を占拠した韓国軍は、家を焼きはらい、女・子どもを問わず人々を追い詰めていく。兵隊の中には殺害をためらう者もいたが、上官は狂ったように虐殺を命じ、命令に背いた者を罰した。そんな中、沈黙していた兵士が怒りを爆発させる…。
●アジコのおすすめポイント:
韓流ドラマのロケ地として日本でも注目され、世界遺産にもなっている済州島。この歴史ある美しい島で、ほんの65年前にこんな陰惨な事件が起こっていたとは! しかも、この映画が作られることになった近年まで、この事件はタブーとして封印されていたというから驚きです。南北分断を決定づける選挙に抵抗した人々への弾圧が、極端にエスカレートしたのがこの事件。『シルミド』『光州5・18』『戦火の中へ』と、戦時中実際に起こった悲劇やタブーをドラマチックに描いた作品が多い韓国ですが、本作は全編がモノクロのドキュメンタリータッチ。済州島出身のオ・ミヨル監督は、事件を世界に知らせるだけでなく、犠牲者や残された家族の癒しになるようにと、構成に韓国の祭事方式を採用。神位、神廟、飲福(ムドンが持ち帰ったジャガイモ=チスルを皆で食べる場面)、焼紙の4つのシークエンスで描き、リアリズムよりも詩的手法を用いています。
|