左よりタン・ウェイ、アン・リー監督、ワン・リーホン
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2007.12.4
リッツ・カールトン(六本木)
いよいよ2月2日より、日本でも封切りとなった『ラスト、コーション』。公開に先立つ昨年末12月4日に、アン・リー監督と主演のタン・ウェイ、ワン・リーホンがPRのために来日。(残念ながら、トニーはスケジュールの調整がつかず)記者会見が開かれましたので、まずはその様子からご紹介します。 (アン・リー監督のコメントがかなり長いのですが、興味深い話ばかりでしたので、ほぼノーカットの採録に近いものになっています。じっくりとお楽しみください。)
監督「皆さんとお会いするのは2年ぶりです。この前は『ブロークバック・マウンテン』という作品で来ましたが、その時は英語で話しました。今回は中国語の作品で来ましたので、中国語で話します。『ブロークバック・マウンテン』と『ラスト、コーション』は、どちらも不可能な愛を探究する作品で、ある意味では姉妹作になります。気に入っていただけると、大変うれしいです」
ウェイ「こんにちは、タン・ウェイです。日本へ来たのは2度目なのですが、気候も素晴らしいし、窓の外の景色も素晴らしく、とても気分良く過しています。ぜひ、作品を気に入っていただけたらと思います。今回の滞在が楽しいものになるよう祈っています」
リーホン「(日本語)皆さん、こんにちは。ワン・リーホンです。(以下は英語)今日は英語で話します。『ラスト、コーション』はとても特別な作品です。今日ここで、皆さんに映画をご紹介できることを、とてもうれしく思います。質問にお答えするのが楽しみです。皆さんが気に入ってくださるといいのですが。また日本に来ることができて、とてもうれしいです」
と、ご挨拶の後は、司会の襟川クロさんからの質問からスタート。
司会「まず、この作品の映画化の背景を教えてください」
監督「この映画を作るにあたり考えたのは、面白いことは苦痛と密接な関係があるということです。この映画のテーマはタイトルの通りで、『色』と『戒め』に分かれています。つまり、私たちは『色』と『戒め』をどのように見るのか、という問題について、この映画は探究しています。『色』に関しては、後ろに『情』をつければ『色情』に、『相』をつければ『色相』になる。そういったものが、この映画を撮る時の一番のモチベーションになりました」
さらに、撮影時の様子や心境が続きます。
監督「5ヶ月間、計118日間の撮影でしたが、毎日の撮影時間が長かったので、まさに地獄に堕ちたような気がしました。実はその間に、仲代達矢さんが出演された日本映画『地獄変』を思い出しました。彼と同じように画家になって、地獄絵巻を描いているような気分でした。なんで、こんな地獄で修行しているのかなあと(笑)。しかも私だけでなく、こんなに素晴らしい勇気のある俳優たちやスタッフたちと一緒に修行しているわけですから、地獄に堕ちたままではいけません。彼らを連れて、また人間の世界に戻って行きたいといろいろ努力して、この映画を撮影しました。
撮影は3ケ所でやりました。1週間は香港、その他は上海。マレーシアでも1週間撮影しました。今の香港には昔の面影をほとんど見ることができないので、古い香港はマレーシアで撮影したんです。たくさんの人が撮影に関わっています。映画の最後の方に出て来る上海は、上海映画撮影所に大きなセットを作りました。大きな仕事でした。この映画には、中国映画としてはかなり大きな1500万米ドルを投資して撮影しています。
我々中国人は日本の皆さんと違って、あまり古いものを大切にしません。それで、美術スタッフや俳優たちは、昔の参考資料を探すのにとても苦労しました。今回の一番大きな収穫は、素晴らしいスタッフや俳優の皆さんと一緒に仕事できたこと。中国ではよく『人に教えることは、生徒から学ぶことでもある』と言いますが、今回はとても有意義な勉強過程でもありました」
ここからは、記者による質疑応答へ。
Q:冒頭の麻雀の場面から、とても美しいシーンが続きます。また、戦争シーンは銃声だけで実際には出て来ませんが、対照的にベッドシーンはしっかり描かれていました。その意図は?
監督「この映画では、戦争や当時の歪んだ社会を通して、人間性の深層を探究しようとしています。銃弾が1つも見えない戦争ですが、同時に男性と女性の戦争でもある。また、実際は日中戦争ですが、よく見ると中国人同士の内戦も描かれています。従って、僕が野心を持って描きたかったのは2つの部分。1つは麻雀のシーン、もう1つはベッドシーンです。
麻雀は中国人にとっては、国技の1つです。四角く囲んだお城のようなゲームなので、このシーンは内戦に見立てて撮りました。アイリーン・チャンの小説には面白いポイントがあります。彼女は女性ですから、女性の視点から、男性がいかに戦争を挑んでいくかを描いています。たとえば、冒頭の女性ばかりで麻雀をしているシーンですが、お互いにはっきりとは言わないけれども、イー夫人ははたして内情をどのくらい知っているのかしら?このテーブルに座っている他の女性の何人が、イーと肉体関係を持っているのかしら?…と、それぞれいろいろ考えているわけです。女性同士の言葉の戦いの中に、男性の戦争的な部分が見えます。表情や仕種や身体の動きは、見た目はとてもエレガントで優雅ですが、言葉の内容を吟味してみると、実はとても激しい攻防戦を繰り広げている。この場面は、僕にとってまさに映画そのもので、撮りたいと思いました。
この麻雀のシーンには、テーブルクロスが敷かれています。一方、ベッドシーンにはベッドシーツが敷かれている。この違うシーツの上に、違う世界があるわけです。ベッドシーツの上では、占領と非占領という形で、男女の関係を描いています。描きたかったのは、ヒロインの身分です。ワン・チアチーはマイ夫人の身分を借りて、イーに近づきます。セックスと借りて来た身分を通して、イーに認められたい、愛と情の部分を認めさせたいと思っています。そして最終的に、自分の目的を達成する。そこで、このベッドシーンは重要な役割を果たすことになります。ここで描かれている『色』は『色情』だけではなく、人間の感情を込めた『色相』も描かれているのです。だから、僕にとっては、このベッドシーンはどうしてもきちんと撮らなければなりませんでした。そこで計12日間をかけ、非常にプライベートな環境の中で、このシーンをきちんと撮りました。
3つのベッドシーンを通して、きちんと表現できたことに対し、素晴らしい俳優の皆さんにお礼を言いたいと思います。自分を犠牲にして、このような素晴らしい演技を演じてくれました。この3つのベッドシーンは、究極のパフォーマンスと呼んでいます。映画の中では、ベッドシーンに限らず、虚と実、真と偽とはどういうことなのか、はっきりと言葉では表現できません。そこで、このような究極の演技を通して表現しようと試みました」(続きを読む)
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