左よりウォン・カーワイ監督、バズ・プーンピリヤ監督(*インスタグラムより)
2022年夏のWKW特集。第1弾は8月5日より公開のタイ映画『プアン/友だちと呼ばせて』のご紹介です。監督はあのメガヒット作『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』で世界の映画ファン、映画関係者を唸らせたバズ・プーンピリヤ。その才能はアジアの巨匠ウォン・カーウァイ(王家衛)監督をも魅了し、なんと自らラブコール。自身のアイデアを託し、プロデューサーとして「一緒に映画を作ろう」と声をかけたのでした。プロデューサーとしてもたくさんの作品を手がけているウォン監督ですが、異国の若手監督に声をかけたのは今回が初めてです。
今年で41歳になるプーンピリヤ監督にとって、ウォン・カーウァイ監督はアイドルのような存在。まったく面識のなかった憧れの存在からオファーを受けたプーンピリヤ監督は「嘘だろ?」と飛び上がって驚いたそう。返事はもちろんイエス! ウォン監督は早速、プーンピリヤ監督を香港に呼び寄せ「バケットリスト(死ぬまでにやりたいことリスト)ムービーでいこう」というアイデアを提示。主人公は中国のポップスターで、余命宣告を受けて世界中を旅するが、タイで出会った女性と恋に落ちるという設定で脚本を書いてみようというお題だったそうです。
脚本ができるまで
プーンピリヤ監督は1年をかけて、全力で脚本を書き上げますがうまくいきません。粘り強いことで知られるウォン監督ですが「このストーリーは捨てよう、君に思い入れが感じられない」とあっさりと却下。「もっと自分自身を投影したストーリーにした方がいい」。そこでプーンピリヤ監督は考えます。「今、自分が最も描きたいものは何か」。そして閃いたのが「死にゆく男性が元カノたちに感謝と謝罪、そして最後のさよならを言いに行く物語」でした。
新たに脚本を開発するうえで、ウォン監督は重要なアドバイスをします。1つは「余命宣告を受けるキャラクターだけでなく、行動を共にするもう1人の人物を登場させよう」というもの。2人で人生のレッスンを学ぶけれども、1人が生き残ることで、その学びを未来へと継承することができる。なるほど。もう1つは、ウォン監督のモットーでもある「自分らしくあれ、自身のストーリーを綴れ」ということ。それを真摯に受け止めたプーンピリヤ監督は、3か月という驚異的なスピードで、こだわり屋のウォン監督を納得させる脚本を完成させました。
主人公は2人のイケメン!
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物語はニューヨークのカクテルバーからスタート。バーを経営するボスに深夜、数年前に去ったウードから電話が入ってきます。「父と同じ白血病になり、残り時間が少ないので手伝ってほしい」慌ててバンコクに駆けつけたボスを待っていたのは、ウードの元カノたちを訪ねる旅。父が残したBMW、DJだった父の番組を録音したカセットテープ。音楽と共にタイを巡る旅。個性的な元カノたち。最後にたどり着いたのは、ボスの実家があるパタヤビーチのリゾートホテル。そこでウードがボスに告白した、彼に返したいものとは…。
主人公を演じるのは、トー・タナポップとアイス・ナッタラット。二人とも、今年で28歳のモデル経験もある注目の若手イケメン俳優です。キャスティングはウォン・カーウァイとプーンピリヤ監督の二人によるオーディションでした。
最初に決まったのは、ウード役のアイス・ナッタラット。「オーディションで彼を見た瞬間、この映画の持つ感性、作品のトーンや声、最終的にどんな形になるのかが初めて見えた。だから、彼に決めるのは簡単だった」とプーンピリヤ監督。たしかに、全編を通じて強く印象に残り、物語をひっぱって行くのはウードの顔。心を表す表情が胸に迫ります。
その最も難しいウード役を演じるにあたり、真面目なアイスはとてもストイックに取り組んでいます。余命宣告をされた人たちのグループセラピーに足を運び、肉体的には1か月半の猶予をもらって、運動と食事量を計算。見事17キロの減量に成功しました。体重の減少と共に声が細くなり、話し方も変わって行ったそうで、それも役づくりとなりました。
ニューヨーク時代のウード
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17キロ減量し、死期が迫ったウードを熱演
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また撮影当時、たまたま余命宣告を受けてしまった監督のニューヨーク時代の友人ロイドさんと深い対話を重ねることができました。「結果的に、ウードのキャラクターには、ロイドのDNAがたくさん入っている」とプーンピリヤ監督。残念ながら、ロイドさんは映画の完成前に亡くなられたため、本作はロイドさんに捧げられています。
一方、ボス役にはウードとは正反対のキャラクターが求められました。トー・タナポップには少年のようにチャーミングなところがあり、女性に対しても軽快なコミュニケーションが得意。さらに、バーテンダーという役柄を演じることになり「とても一生懸命習いました。2、3か月真剣に練習しました」と、プロのバーテンダーからカクテルづくりを学び、完璧にマスターして撮影に臨んだという努力家な一面も持ち合わせています。
車の運転を任せられるボス
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思いがけない告白に驚くボス
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前半の軽めな役柄から一転。後半には過去に遡るボスのもう1つの物語が展開され、トー・タナポップの新たな魅力が見られるので、お楽しみに。
ウォン・カーウァイからのコメント
最後に製作総指揮をつとめたウォン・カーウァイからのコメントをご紹介します。
『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』でバズの作品に出会い、彼のユニークな才能を本当に見逃すことはできませんでした。そこで、彼を香港に招き、バケットリスト(*死ぬまでにしたいことリスト)とともにカクテルを何杯も飲みながらバンコクからニューヨークまでを巡るバディの物語を作ることにしたのです。それが本作『プアン/友だちと呼ばせて』で、バズのこれまでの作品の中で最もパーソナルな作品となっています。パンデミック中に素晴らしい仕事をし、献身的に働いてくれたバズと彼のチームに改めて感謝したいと思います。そして日本の友人たちへ、この映画はあなたの大切な人と分かち合うべき映画です。皆さんが楽しんでくれることを願っています。(ウォン・カーウァイ)
映画人の間では一緒に仕事をすると大変、と噂されているウォン・カーウァイ。しかし、プーンピリヤ監督の撮影現場には一度も顔をださなかったとのこと。監督が「来てください」と頼むと「行ったら僕のことを嫌いになるだろうから」と言われたそう。それだけ、プーンピリヤ監督を信頼していたのですね。音楽の使い方や色合い、アングル、小道具や演出など、ウォン・カーウァイ作品や香港映画へのオマージュを散りばめつつ、タイのプーンピリヤ監督ならではのプライベートな作品として完成した本作。登場人物が皆、個性的で愛すべき人物として描かれているところも、群像劇を描くウォン・カーウァイ作品に通じています。
元カノを演じる女優さんたちも素敵です。ウードのお父さん役を演じるのは、『ポップ・アイ』『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』でお馴染みの、タネートさん!(この役柄が一番、本人に近いかも)魅力的な映像、音楽、登場人物にストーリー。ウォン・カーウァイ監督の作品群と同じように、本作も何度も繰り返し観たくなることでしょう。
『プアン/友だちと呼ばせて』は8月5日より、新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、渋谷シネクイントほか全国劇場で順次公開です。
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