©Hangzhou Entertainment Films
地獄でもう1つ思い出すのは、ウー・レイがお母さんを背負って山の中を歩くシーンです。あの山はほんとうに人気のない深い山で、山の麓から歩いて2時間くらいかかります。前日、ウー・レイとジアン・チンチンは水辺のシーンに臨んでいました。とても寒い時期で、スタッフは皆コートを着ていました。そんな中、水辺のシーンを撮影したので、ウー・レイはちょっと風邪気味でした。身体がすごくきつい上に、お母さんを背負って山に登らなくてはならない。大変なシーンだったので、翌日に回そうかと思いましたが、山を往復するには4、5時間かかるし、スタッフもたくさんいるからと、ウー・レイは頑張って登りました。彼も、この日に絶対、撮影を終わらせようと思ってくれていたんです。疲れて吐きそうになるシーンがありますが、これはほんとうに辛かったんです。
撮影が終わった時、彼はもうへとへとな状態でした。しかし、そこから2時間かけて山から出ていかなければならず、さらに過酷でした。『これは僕の人生の中で一番の暗黒時間だ』とウー・レイは言いました。今生で一番暗かった時間だと言うんです。『僕は昔一度、手術をしたことがある。小さな手術だったので、痛いというのを経験してみたい、それが将来の演技に活かせるかもしれないと思い、麻酔をかけないで手術を受けたんだ。凄く痛かったので、今までは一番の暗黒時間だったけど、今回山から出てくる時の辛さはそれを上回っていた。自分はこの山から一生出られないのではないかと思った』と言っていました」
衝撃的なエピソードながら、場内ではときどき笑いも起こっていました。東京国際映画祭で来日した時、インタビューで「僕にとっては監督が地獄だった」と語っていたウー・レイ。こういうことだったのですね。この後、橋の下で母と息子が叫び合うシーンのメイキング映像が上映されました。
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昨年の東京国際映画祭での舞台挨拶風景
左からウー・レイ、ジアン・チンチン、グー・シャオガン監督、ワン・ジアジア、イエン・ナン、ワン・ホンウェイ
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ー俳優さんたちとの信頼関係についてもお聞かせください。
監督「今回、役者の皆さんの信頼を得て撮影していく中で、私たちの関係は仕事を超えた感情で結ばれるようになりました。今ご覧いただいたシーンの撮影で、僕は魂を差し出すというのがどういうことかわかったような気がします。あの撮影の瞬間は、ほんとうに役者たちの力が全てでした。役者の皆さんは完全に私たちに魂を預け、私やチーム全体を信頼して演技をしてくれました。自分のほんとうの心や魂を開け放って演技をしてくれました。その時、あの二人はムー・リエンとタイホワという役柄を演じていたのではなく、またウー・レイ自身、ジアン・チンチン自身でもありませんでした。たくさんの母と子の魂が降臨して、あの演技ができたのだと思います。
もう1つ大事なのは、その場にチェン・ジエンビンがいたということです。彼も私たちに完全な信頼を置いてくれました。チェン・ジエンビンさんはジアン・チンチンさんの実生活の夫なのですが、妻に対して多くの励ましを与えていました。そういう助けがあって、あの演技ができたのだと思います」
この後でカットされている未公開シーン上映の後、観客とのQ&Aが行われました。
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