2024年8月27日 Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(渋谷)
プロモーションでの来日は初のグー・シャオガン監督
9月27日より絶賛公開中の『西湖畔に生きる』。公開1ヶ月前の8月27日夜、渋谷の Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下にて先行上映会が行われ、グー・シャオガン監督が来日。上映後に未公開映像の初上映とトークイベントが開催されました。前作『春江水暖〜しゅんこうすいだん』の公開時は、まさにコロナ禍の影響で来日できず、プロモーションでの来日は今回が初となります。トークイベントの司会進行役は、配給会社ムヴィオラの代表、武井みゆきさん、通訳は本作の字幕も担当された磯尚太郎さんです。
先行上映が終わり、満場の拍手で迎えられて監督が登場します。まずはご挨拶から。
監督「皆さん、こんばんは。監督のグー・シャオガンです。昨年10月、東京国際映画祭でも来日し、皆さんにご挨拶しました。その時も幸運なことに、たくさんの方に注目していただけました。山田洋次監督と対談することもできて、当時は現実感がなく夢見心地でした。今回、また日本へ来て、さらに多くの観客の皆さんに映画をお見せすることができ、とても嬉しいと同時に親しみを感じています。皆さんどうぞ、この『西湖畔(に生きる』を応援してください」
前作と大きく変わったジャンル映画への挑戦
ー前作『春江水暖〜しゅんこうすいだん』からの変化について教えてください。
監督「主な理由は2つあります。1つは製作そのものについて。実は私は映画学校で映画を学んだわけではなく『春江水暖〜しゅんこうすいだん』は初めての長編劇映画でした。これはインディペンデントな方法で製作されています。その頃から、もっと早い段階で、いろんな映画製作や技法を学びたいと思っていました。今回は幸運なことに、ウー・レイやジアン・チンチンというスター級の俳優を起用することができ、製作の上でも、映画産業のルールに則った商業的な映画製作をすることができました。前作とはまったく規模の違う映画製作をすることができたのです。
2つ目は映画美学に関することです。幸運なことに前作の『春江水暖〜しゅんこうすいだん』は多くの方に認めていただき、好きと言ってくださる方がたくさんいるのですが、『春江水暖〜しゅんこうすいだん』を撮っている時はまだ、山水と映画の関係をちゃんとは考えていませんでした。山水の映画を撮ろうと思って撮り始めた訳ではなかったのです。なので、『春江水暖〜しゅんこうすいだん』を公開した時の監督宣言では、山水映画を3巻撮る、3作の山水映画を撮ると書いていたのですが、『西湖畔(に生きる』ではそれをちょっと訂正しました。『西湖畔(に生きる』の冒頭に「無数の山水画がある」という書が出てきます。つまり、無数の山水映画があるという表現にしました。
『春江水暖〜しゅんこうすいだん』を撮った頃は、まだ山水という映像言語が見えてきた段階で、「富春山居図」という山水画がから出発して映画を作っていきました。この山水画が山水という映像言語を引き出してくれたんです。『西湖畔(に生きる』では、別の挑戦をしてみたかった。山水が1つのジャンルになるという挑戦です。犯罪や恋愛、ロードムービーなどいろんなジャンルがありますが、今度は山水が映像言語を超えてジャンルになる可能性がないかを追求したかったのです」
ー冒頭のシーンは脚本の段階から、こういう映像で始めようと考えていたのですか?
監督「そうです。『春江水暖〜しゅんこうすいだん』の時は長回しをたくさん使いました。長回しは技術としてはそれほど難しいわけではないと思います。右から左、左から右とトラベリングしていく。長い時間回すだけなので複雑ではありません。私が『春江水暖〜しゅんこうすいだん』でやった長回しが既存の長回しと違うのは、時間と空間に対する理解や概念がこれまでのものと違い、中国の山水画に由来していたからです。たくさんの登場人物たちが1つの時間と空間に存在して、いろんな物語を繰り広げていく。そういう原理を映像にしたのが『春江水暖〜しゅんこうすいだん』の中の長回しです。
©Hangzhou Entertainment Films
『西湖畔(に生きる』でも、山水画の要素を使って別の映像言語を作り出せないかと考えました。絵画と映画は芸術としての形式が確立されていますが、それぞれにルールがありますよね。その垣根は簡単には超えられない。長い時間をかけて、山水画と映画のそれぞれの原理を勉強しないと、それを結びつける可能性を切り開くことはできません。今回、『西湖畔(に生きる』の中ではドローン撮影を使ったのですが。そこに山水画の「遊観」という原理を応用しました。これは、写実的な写し方ではなく、複数の空間を1つの画面の中に並列させて置くという考え方です。その中に流れている時間も、客観的に外側から見ると、違う時間が並列されているのです。そういう山水画の中の1つの考え方を、『西湖畔(に生きる』のドローン撮影で翻訳して映像にしたのが冒頭のシーンです」
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