●映画の撮影について
Q:アクションシーンが満載ですが、特に気に入っておられるシーン、思い入れのあるシーンはどこですか?
監督「僕が一番好きなのは、冒頭のヘリコプターがずっと車を追って行くシーンですね。忘れ難いシーンというと、シーンというよりはその製作過程ですが、ジャンボ機が墜落しそうになり、高層ビルに突進していくまで。そして、最後に着陸するところです。その部分の製作現場はとても忘れられません。
あの当時は、こういうシーンを撮るのがこんなに難しいとは思っていませんでした。とにかく、今までにないものを見せよう、観客が見てびっくり仰天するようなものを見せようと。たとえば、飛行機の車輪に降りて行くとか、そういうものをやろうよと話していた。ところが、現場はほんとうに難しかったのです」
Q:スタントなしというのは、ほんとうなのですか?
監督「そうです。マークも、皆も、全部自分でやっていました」
Q:かなり怪我があったのではないですか?
監督「何人かは怪我をしましたが、幸い大きな事故や怪我はありませんでした。例えば、インションとシュー・ダーフーが手錠で結ばれて、ホテルの中で外国人と闘うシーンがありますが、その外国人は役者ではなく、本物の武道家でした。しかも、チャンピオンです。彼は役者ではないので、闘う時は全部本気でやってきます。そうすると二人は大変で、マークは何回も蹴られて身体にアザができ、痛い痛いと言っていました。
そういう場面もありましたが、銃撃戦や爆破、カーチェイス、空撮などには、細心の注意をはらって準備に時間をかけ、現場でしっかりしたテストをした後に、初めて役者に入ってもらっていました。安全面での配慮はほんとうに、ほぼ完璧なくらいにやりました」
Q:撮影のリー・ピンビンさんは、あまりアクション映画のイメージではありませんが?
監督「(笑いながら)実は彼はアート映画だけでなく、アクション映画も撮っているんです。日本ではあまり注目されていませんが。そこで僕も『こういう映画は撮れないんじゃないかと言われていますが?』と尋ねてみたら、『いや、撮りますよ。とても興味があって面白いと思います』と。実はリー・ピンビンさんとは20年来の知り合いで、僕がリーさんと知り合った頃はまだ子どもでした。今回は彼に助けてもらい、彼の持っている能力を生かせば、何か今までにないものを、我々の作品に提供してくれるだろうと信じていました。そして実際、見事にそれを見せてくれました」
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撮影中に「今日はインションのかっこうをしていますね」と言うと、「(ポスターのインションを指差しながら)そっくりのTシャツを着たことがあるんだ。(PR映像撮影で)日本の皆さんと高雄に行った時、あの日はインションがいなかったから、僕がインションをやる!と言ったんだよ(笑)」と、得意げな監督。かわいいです。
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●台湾映画界と監督の今とこれから
Q:台湾映画界についてお聞きします。台湾映画というと青春映画が得意なイメージがありますが、今回のような大きなエンターテインメント作品は初めてで、とても新鮮です。今、こういう作品を作りたい監督たちは多いのでしょうか?
監督「いると思いますね。台湾には今、新しい監督たちがとてもたくさんいます。皆、想像力が豊かで、新しい事をやりたいと思っています。今までは、やはり技術的な制限などがいろいろあり、なかなかうまくいきませんでしたが、この映画がきっかけになって、スタートを切ったような形です。今後、皆さんがもっと想像力を生かして、このような映画がたくさん作られると、台湾映画界のジャンルが多元化します。そういう風になると嬉しいです」
Q:『ハーバー・クライシス』以外で、次はどんな作品を撮りたいですか?
監督「映画に関しては、とても大型のプロジェクトを1つ手がけようと考えています。いわゆる、アドベンチャー・アクション系の作品です。特殊効果やCGなどをたくさん使うので、その部分だけでもおそらく1〜2年はかかるでしょう。今までの中国語映画界では見たことのない、アジア映画界でもおそらく大変珍しい、見たことのないような作品を作るつもりです。その作品の中で、また観客の皆さんに斬新な物をお見せしたいと思っています。
とはいえ、テレビドラマの製作を諦めたわけではありません。実はもう1つの構想があり、特殊効果やCGをふんだんに使うテレビドラマシリーズをやってみたいのです。『ブラック&ホワイト』でもいろいろとチャレンジをして成功したので、こちらでもまた新しい物を作ってみたいと思っています」
Q:すごく重厚な文芸映画を撮ってみたい気持ちはありますか?
監督「(苦笑いをしながら)実は、ほんとうのことを言うと、最初に習ったのは文芸映画なんです。こういった物語もたくさん持っていますが、短期的には、商業映画の市場をもう一度再構築しておきたい。今はそれが大事です。なぜかというと、映画自体がまた復活して繁栄すれば、アジア映画の市場、台湾映画の市場がますますよくなります。そうすると、文芸映画を撮る機会も増えますし、その時は多分、文芸映画を撮ってもしっかりしたリターンが返ってくると思います。当面は、商業映画の市場構築に尽力したいと思います」
日本では今、監督は「台湾のスピルバーグ」と言われていますよ。
監督「(とっても嬉しそうに)オー!アイ・ライク! アイ・ホープ! そうなりたいですね(笑)。スピルバーグ監督は最も尊敬するクリエイターの1人です。 ずっと映画を手がけていて、常に創作的意欲があるし、いつもハッピーで若い心の持ち主。しかも、自分が映画を撮るだけではなく、若手の創作活動も惜しみなく指導しています。間違いなく、僕のこれからの仕事においての1つの目標ですね。監督みたいになりたいです」
香港にはツイ・ハーク監督がおられますが、台湾のツイ・ハーク監督のような感じになられるのではと思うのですが。
監督「これは恐縮です。ツイ・ハーク監督は僕らにとってはとても大事な先輩の1人で、想像力がほんとうに豊か。僕らはぜんぜん及びません。僕たちはまだ一生懸命勉強している段階です。いつか、ツイ・ハーク監督が香港映画界になさった貢献と同じように、我々も台湾映画界だけでなく、アジア映画界、あるいはアジアの映画市場に、たくさんのいい作品をもたらすよう、一生懸命貢献したいと思います」
映画やドラマを創るのが楽しくてし方ない、という風情のツァイ監督。思い描いている夢や構想、計画もまだまだたくさんあるようです。最初の方は意識的に、短く応えていただいていたようでしたが、話し出すと次第に熱中。やや早口で、通訳を待たずに話し始めたりと、やはり次第にお話が長くなりました(笑)。台湾映画界に娯楽映画の市場を復活させたいと、熱く語るツァイ監督。テレビで培った手腕をさらに磨いて、これからも驚くような作品を見せてくれることでしょう。
(2012年8月22日 東映本社にて)
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