『ハーバー・クライシス<湾岸危機>』が映画監督としての デビュー作となったツァイ・ユエシュン監督
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台湾映画市場を再構築したい
−ツァイ・ユエシュン (蔡岳勳)
台湾映画というと、ホウ・シャオシェン監督やツァイ・ミンリャン監督に代表される文芸作品やアートフィルム、そして、ここ数年の台湾新世代の監督たちによるみずみずしい青春映画、というのが特徴でしたが、『ハーバー・クライシス<湾岸危機>』はハリウッド映画級の製作費と技術を注いだ一大エンターテインメント作品として仕上がっています。
この映画を撮ったのが、アジア圏に華流ドラマブームを巻き起こし、若手の人気アイドルたちをたくさん誕生させてきたツァイ・ユエシュン監督。この作品の元となったドラマ「ブラック&ホワイト」(09年)を大成功させ、本作で映画監督としてデビューを飾りました。今回は単独インタビューの機会をいただいたので、監督ご自身のことから、「ブラック&ホワイト」のドラマ版と映画版について、さらには台湾映画界の今と将来の構想について、じっくりとお話を伺いました。
●監督になったきっかけ
Q:まず、監督ご自身についてお聞きします。お父様(蔡揚名)はドラマ版のプロデュースをされていますが、ツァイ監督も俳優、そして監督をやっておられます。監督を目指したのはいつ頃からですか?
監督「実は父は映画監督なんです。台湾映画界が一時期とても低迷したので、それでテレビ界へ入りました。映画監督になりたいと思ったのは、今から30年くらい前。12〜13歳の頃です」
Q:そう思われたきっかけは?
監督「幼い頃は、ずっと父親と一緒にスタジオで過ごしていたので、ああ、こういう生活なのか…僕にもぴったりの職業かもしれない、と。きっと、父親と同じようになれると思ったのでしょう」
お父様の仕事場によく行っていたのですね?
監督「そうです。現場をあちこち走り回って、いいなあ、楽しいなあ…と思っていました(笑)」
Q:これまでに青春ドラマや医療ドラマ、そして「ブラック&ホワイト」ではアクションと、いろんなタイプの作品を撮られていますが、いろいろ試してみたかったのですか?
監督「性格的に、創作に関しては常にチャレンジしたい気持ちが強いんです。同じようなものは、あまり作りたくない。人間に与えられた時間には限りがあり、創作に関しても、年齢や時間の制限があります。常にクリエイティブなことをやらなくてはいけません。自分の能力や表現、技術力で、どんどん新しいものをやりたい。そういう性分なんでしょうね」
●「ブラック&ホワイト」について
Q:ドラマ「ブラック&ホワイト」は映画と同じくらいクオリティの高い作品ですが、その経験があって、今回は映画ということになったのでしょうか?
監督「実はドラマ版を制作する当初から、ドラマを2シリーズ、最後に映画を1本作って完結させる計画でした。製作や準備の段階では、アクションも技術も全部用意していました。ところが、1作目の時に資金を全部使ってしまったのです(笑)。それで、技術的な能力はあったので、まず先に映画を作ることにしました」
なるほど。それで前哨戦になっているのですね。映画を観ると絶対ドラマを観ちゃいますね。
監督「そうそう(笑)。繋がってるから」と監督うれしそう。
Q:ドラマを観ると、その次が気になるのですが?
監督「(笑)まあ…そうですね。多分、今回の映画の続編を撮ろうかと思っています。やはり(1作目の)ドラマが終わって、もっともっとたくさんの物語がこれからもありますよね。でも、映画の続編を先にやろうと思います」
Q:ということは、ドラマまでの3年間のお話なのでしょうか?
監督「まだ確定ではありません。映画の続編を撮るのであれば、まず出演した俳優全員のスケジュールをどうするかというのもあり、案はいろいろありますが、その3年間の話なのか、それともまったく違う話なのかは、今いろいろと議論をしているところです」
おそらく、様々な事情があると思われるので、これ以上突っ込むのはやめて、次の質問に移りました。
●映画版の出演者について
Q:主演のマーク・チャオさんは監督が発見して育てたと言ってもよいと思いますが、彼を起用した理由と、どのように育てていかれたのかを教えてください。
監督「当時、インション役をやる役者を見つけるのは大変でした。かなり時間をかけてキャスティングをしたのですが、オーディションに来た人は全員新人でした。ある偶然な機会で、マークと出会いました。その時の印象は、ほんとうにおとなしくて、落ち着いた大きな男の子というイメージ。会社側も、このハードな役をこいつがやれるのかなあ…と心配していました。僕も彼と2回会って、いろんな話をしました。話している内に、彼には非常な決意があり、この人ならやれるだろうと思ったのです。
僕もここ数年ずっと、ドラマを作る機会を生かして、新人の発掘にも一生懸命力を入れてきました。なぜかというと、台湾映画も台湾ドラマも世代交替が遅れており、いい役者がなかなか育たないのです。なので、そういうチャンスを生かして、どんどん発掘するよう心がけてきました。例えば、F4もそういうきっかけで、大成功しました。マークももちろんそうで、持って生まれた才能を持っているので、成功するのはあたりまえだと思います。僕が育てたわけではありませんよ(笑)」
台湾は今、若手の俳優さんの宝庫ですよね?
監督「僕もすごく嬉しいです。今の新人の皆さんは台湾でもとても評価が高く、たとえばマークの他に、イーサン・ルアンやエディ・ポンもいます。F4の4人もそうだし、皆さん若いのでこれからもっともっと楽しみです」
Q:ホァン・ボーさんについてもお聞きしたいのですが、今回、彼を起用された理由は?
監督「僕が想像していたイメージにぴったりだったのです。この役柄に関して言えば、ある程度、年齢がいっていること。そして、とても不運でどこかおかしいという外見が必要でした。だけど、本気で何かをやる時はとても一生懸命やる。そして、見た人がそれを信じられる。つまり、この役を演じる役者に求められる表現の能力や幅が、とても広いのです。
その一方で、我々の作品はアジア各地から役者を起用しようということで、特に中国からの1人というのはとても大事な部分でした。そんな時に彼と出会って、この役にぴったりだったんですね。映画の中の彼の表現は、とても素晴らしいものがたくさんあり、この映画にある種のアクセントを付け加えてくれています。おそらく、この役者はこれからが楽しみ。もっともっと化けて、大きな発展をしてくれるでしょう」
Q:ホァン・ボーさんは中国だけでなく、最近では香港や他の国の作品でも活躍されていますね。これからも、一緒にお仕事をされますか?
監督「それは間違いありません。彼はほんとうにプロフェッショナルで、監督にとっては素晴らしい俳優ですから。今回の撮影で、すっかり友だちになりました。これからもまたお互いに、間違いなく一緒にやりたいと思っています」(次頁へ)
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