●絶妙だったアンドリュー・ラムの起用
Q:歌といえば、皆さんもエンディングの曲を一緒に唱っていますね。
ジョシー「ええ。とても楽しかったわ(笑)。歌詞はアンドリューが書いたの。音楽はユウスケ(波多野裕介さん)」
監督「もともと、あれは歌じゃなかったんです。波多野さんが映画音楽として考えてくれていて、彼とは音楽についていろいろ話をしていました。真ん中あたりに、広東語のタイトル『全力扣殺(チュン・リク・カウ・サッ)』が入るんですが、それがドン・ドン・ドン・ドンと聞こえるので、これに歌詞を付けて入れると面白いんじゃないかと。たまたま、アンドリューが香港では有名な作詞家なので、『興味があったら、歌詞を考えてください』と持ちかけてみました。すると、『30分、時間をくれ』って…」
ジョシー「トイレで考えてた(笑)」
監督「トイレやご飯を食べる時に作ったんです(笑)」
さすがですね!
監督「天才なんです(笑)」
Q:キャスティングが懐かしい顔ぶれで豪華ですが、楽しかった思い出を聞かせてください。
監督「アンドリューをキャスティングしたのが一番よかったよね」
ジョシー「もともと、彼の役は舞台俳優でもあるツェー・グァンホウ(サウのお兄さん役で出演)がやるはずだったの。ところが、舞台劇があって時間が取れないので降りてしまい、アンドリューがやることになった。彼はとてもアドリブが多くて、アイデアも豊富。とにかく爆笑させるキャラなので、彼が演じた後、グァンホウにそれを見せたら『僕にはできないよ』って。それが、可笑しかったわ(笑)」
Q:アンドリューさんといえば、気になるのが嘔吐シーンです。日本ではあまり、ああいうシーンはやらないんですが、あれは何を使っているのですか?
監督「お粥です。実は美味しいものなんです(笑)」
(周さんの説明によると、ナッツなどが入った八宝粥だとか)
Q:美味しいものなんですね!
監督「美味しいから、吐いた後も口の周りをペロペロ舐めてます(笑)。観客にとっては、すごく気持ち悪いですよね(笑)」
バドミントンの特訓方法も可笑しいアンドリューの怪演
(c)2015 852 Films Limited. Fox International Channels
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Q:大量でびっくりしました。
監督「ここは悪戯というか、ちょっとした手法なんです。もともと、こういう嘔吐シーンはちっとも面白くないけど、このシーンをどんどん引っ張って長くすると、だんだん可笑しくなってくる。意外とイケるんです。しかも彼の場合、一度吐いた後、ちょっと止まってから、また大量に吐いてしまう。まるで、温泉が吹き出すように(笑)」
Q:あそこはCGですよね?
監督「CGじゃありません。カメラに映らないところにホースがありました。ホースの後ろにはポンプがあって、一定の圧力で勢いよく吹き出したんです(笑)。撮影時にはホースも写るので、CGで消して完成させました。あの場面の彼は、すごく辛かったと思います。ほんとうに吐いてるわけじゃないから、自分ではコントロールできない。僕たちが後ろでポンプを調整して勢いを出すと、だんだん勢いがよくなってきたぞと、彼もそれに合わせて演技をするしかないんですね。結構、大変だったと思います(笑)」
周りも汚れてましたね(笑)。
ジョシー「ロナルド・チェンもベトベトになってたわ(笑)」
監督「現場で笑い話になってるんですが、ロナルドが『身体が汚れるのはいいけど、顔は必要ないよね』と言ってたら、アンドリューがすごく悪戯好きで、手に何か準備してたんですね。本番では顔にまでやっちゃって(笑)…もうやっちゃったから、やるしかないなと…そういう状況でした(笑)」
美味しいものでよかったです。(一同笑)
監督「あれは甘いお粥でした」
●『全力スマッシュ』の精神とは
Q:『全力スマッシュ』のエンディングは何パターンかあったのですか?
監督「実はもう1つのバージョンがありました。全員が座って歌を唱うものです。唱うバージョンと唱わないバージョンがありましたが、感動的であるという方針は同じ。唱った方がよかったのですが、その前にヤン・ネイの歌があったので、間が近過ぎてしまい、かなり痛かったけどカットしました」
Q:間に合って試合に勝つ、というバージョンはなかったんですか?
監督「それは考えたこともないですね。最初から、この映画の精神は『努力すること』と決まっていたから。努力というと、一般的には奇跡が生まれますが、僕たちにとっては、奇跡はどうでもよかったのです。奇跡は必要ではないし、努力は自分のためのものだから。そういう精神でこの映画を撮りました。努力した結果、必ず勝利するということではなく、努力したことが大事。努力することで、心の中では勝利を収めているんです」
Q:続編はありそうですか?
監督「社長と話合い中です(笑)」 ジョシー「私が催促してるの(笑)」
●香港映画界の今
Q:では、香港映画の話をしたいのですが、今の香港映画界はどうなんでしょう? 若い人たちも出て来ていますか?
ジョシー「最近、若手で優秀な俳優も出て来ているわね」
監督「景気でいえば、皆、いろんな映画が撮れています。テーマも多様化しているし。常にあるのは、中国市場を巡る問題ですね。市場が大きいと皆が参入したがるので。一方で中国には検閲制度があるのでいろんな制限を受ける。これは別の問題です。そういうこともあるので、大陸へ行って大きな投資をして映画を撮るのは、クリエイティブな面ではいろんな制限があります。逆に香港映画を撮れば、そういった制限がないので多種多様なものが撮れる。すると、新しい方向が見えてきます。資本自体は大きくないけど、好きなものを何でも撮ることができる。創作について言えば自由に撮れますね」
Q:それはつまり、中国で上映することを想定しなければ、香港では好きに撮れるということでしょうか?
監督「かえって、香港映画の位置付けがはっきりしてきたと思いますね。純粋に香港映画を撮るなら、市場や観客の好みをいちいち考えることなく、自分の好きなことを撮れる。題材も自由度が高くなってきます。香港映画は限られた観客のために撮っているけど、そのおかげで新しい観客が現れたり、新しい人材も出て来ています。そういう意味では、位置付けがはっきりしてきました」
Q:今、何か新しい動きはありますか?
ジョシー「刑務所をテーマにした『壱獄壱世界』(監督:クリストファー・スン、主演:グレゴリー・ウォン)はよかったわね」
監督「僕たちの映画の後にやってましたが、なかなか反応もよかったです」
●次回作について
Q:次回作の予定があれば、教えてください。
ジョシー「まだわからないの。夫(俳優のコンロイ・チャン)が脚本を書いたんだけど、どうやってお金を集めようかと…」
ダニエル・ウーさん(コンロイさんの友人で俳優&監督)に相談してみては?
ジョシー「ダニエルがOKしてくれるといいけど。それに、資金も集めてもらわなくちゃ」
Q:チャレンジしてみたい役柄はありますか?
ジョシー「時代劇をやってみたいわね。夫が英語で書いた時代劇があるの。『ストーン・マスター』っていうんだけど」
実現するといいですね。
ジョシー「そう願ってるの。その映画での私の役は妖女。中国では多分、撮れないわね。テーマはシルクロードなんだけど」
じゃあ、特撮はヘンリーさんで。
監督「最初と最後のCGくらいなら(笑)」
ジョシー「背景もね(笑)」
Q:ヘンリーさんは、次回作の構想はあるのですか?
監督「子どもたちを撮ろうと思ってます。社長ともいろいろ話しているんですが、全員が子どもの『アベンジャーズ』みたいなのをやろうかと。空を飛んだりとか、アクション映画にして(笑)」
子ども『アベンジャーズ』は面白そうですね!
監督「子どもたちがキャンディ争いをして、死の光線を放つとかね(笑)」
では、お二人の新作を楽しみにしています。ありがとうございました。
予定時間をオーバーしてのインタビューでしたが、様々なお話が聞けてとても楽しい時間でした。ここ数年は香港俳優の来日がすっかり減ってしまったので、久しぶりの広東語も心地よく、取材部屋には実はスーザン・ショウさんやアンドリュー・ラムさんたちも、ときどき様子を見に来ていました。音楽を担当した波多野裕介さん(スーザンさんの娘婿でもある)も含めると総勢6人でのゲスト来日。翌日の舞台挨拶とQ&Aもおおいに盛り上がりました。チャウ・シンチーの世界観を受け継ぎながらも、若い世代による感覚も活かされた『全力スマッシュ』。まだまだ順次公開中なので、ぜひ劇場でお楽しみください。
(2015年9月18日 セルリアンタワー東急ホテルにて単独インタビュー)
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