東京国際映画祭でのプレミア上映で来日したエリック・クー監督
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美しくて巨大な観音像、
あれが決め手でした。
ー エリック・クー(邱金海)
3月8日より全国で絶賛上映中の『家族のレシピ』。日本とシンガポールの国交50周年を記念した作品として作られた合作映画ですが、共にグルメ天国である「食」、それも庶民に浸透しているラーメンとバクテー(肉骨茶)をメインテーマに、家族の愛と慈悲の心が詰まった心温かい作品に仕上がっています。
日本公開に先立つ昨年の東京国際映画祭でのプレミア上映の際、本作を監督したシンガポールのエリック・クー監督にインタビューをさせていただきました。ご紹介がすっかり遅くなってしまいましたが、まだ上映が続く映画館もありますし、これから上映スタートの地域もあります。2回、3回とご覧になる方もおられると思うので、改めて詳しくご紹介します。
今回は2媒体での合同取材でしたが、通訳が映画祭などの英語通訳でお馴染みの松下由美さん、ご一緒したのがアジポップ編集長の橋本光恵さんだったので、とてもリラックスした雰囲気に。ユーモラスな監督とのおしゃべりが楽しくて、話があちこちに飛んでしまったので、少し整理してお伝えします。
シンガポールと日本
橋本(以下H):今のシンガポールの若い人たちは、日本に対してどんな印象を持っているのでしょう。
監督「皆、大好きですね。日本の文化や食べ物に魅了されています。非常に多くの面で、日本というのはシンガポール人が一番行きたい場所なんです。福岡や東京、そして食べ物と、日本旅行を1週間するために、お金を貯めている人がたくさんいますよ」
H:エリックさんも日本を熟知しておられますね。松田聖子さんのファンだったそうですが、小さい頃から日本の映画や音楽に接しておられたのですか?
監督「そうです。もっとも、今のシンガポールの若い人たちは、日本の音楽よりもK-Popを聴いて育っていますが。でも、国という面では日本にとても親しみがあります。シンガポールには日本食レストランがとてもたくさんあるんです。この小さな国に、なんと1000件以上の日本食レストランがあるんですよ!」
アジクロ(以下A):それは、かつて多くの日本企業がシンガポールに進出したから?
監督「そうですね。私が育った時代にはヤオハン(八百半デパート)がありました。『わあ!ヤオハンってなんて大きいんだろう!』と。その頃から、日本食に興味を持ち始めたんです。当時はまだ日本食レストランが3件くらいしかなかったので、もうなんでも試してみました。それがここまでに拡がったわけです。なかでもやはり、ラーメンは魅力的で、ラーメンが大好物の人が多いですね」
A:監督もラーメンが一番お好きなんですか?
監督「ワオ。それはあまり日本食という感じじゃないかな(笑)。私は懐石料理が大好きなんです。今日はお寿司をたくさん食べました。大トロをシンガポールで食べるとすごく高いのですが、日本でなら好きなだけ食べられますから。シンガポールのショッピングセンターには日本料理店が必ず入っていて、巨大なドンキホーテもありますよ。ダイソーも。そこに住んでるようなシンガポール人がたくさんいます(笑)。日本では買い物や食べ物だけでなく、日本建築が好きで街の雰囲気などを楽しむ人もいます。それから、スキーも大きな魅力ですね。シンガポール人はスキーが大好きなので、北海道や札幌も人気があります」
この日のランチは回転寿司に行かれた模様。お寿司といえば日本でもピンキリですが、日本にはリーズナブルで美味しいお店も多いので、そこも外国人には魅力かもしれませんね。
斎藤工さんのこと
H:斎藤工さんはとても自然に真人を演じておられますが、彼は監督の作品になんとしても出たいと思っていたそうです。初めて彼に会った印象はいかがでしたか?
監督「初めてお会いしたのはかなり昔で、東京国際映画祭で紹介されました。その時はご挨拶程度だったのですが、昨年、スカイプ(スカイプ・オーディション)で彼と話をしたんです。20分程度の台本を渡して読んでもらったのですが、彼はこの役柄に最適な人だと思いました。繊細だし、料理をしてもらう時の立ち姿もとてもよかったし、パーフェクトなキャスティングだったと思っています。実際にできあがった作品を観ると、彼は期待以上のものをもたらしてくれていました。彼の演じる真人を見てとても感動しましたね。これまでに何本か映画を撮っていますが、撮影中に泣いたことは一度もありませんでした。でも今回は初めて、撮影クルー全員が泣いていました」
真人は母の味と過去の謎を調べるためにシンガポールへ旅立つ
(c)Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale
A:真人が祖母に怒鳴り込みに行くシーンがありますね。今の僕たちには関係ないのに、どうして過去のことにこだわって母を苦しめたのかと。
監督「真人の立場からすれば、感傷的にもなりますよね。斎藤さんは戦争博物館に行った時、ほんとうにショックを受けていました。当時何が起こったのか、詳しいことは何も知らなかったのです。ロケに行った日、彼の顔を見ると青ざめていました。そして、僕のところへやって来ると手を取って『ほんとうにごめんなさい』と言いました。あちこちを歩き回って展示は見ていましたが、まだ、体験談のナレーションを聞く前でしたね。その日はかなりインパクトを受けたようで、1日中、ずっと何かに心を動かされていたようでした」
H:ほとんどの日本人は知らないと思いますね。斎藤さんと同じで、この映画を観るまでは、日本兵とそんなことがあったなんてとショックでした。シンガポールまで侵攻していたことも知りませんでした。
監督「今、ヨーロッパで公開されていますが、シンガポールが日本に占領されていたことを知らないヨーロッパ人もたくさんいました。中国や韓国についてはよく知られていますが」
H:斎藤工さんというと、日本ではセクシーな男優の代表みたいになっているのですが、この真人役が素の姿に近いような気がしますね。
監督「まさにそうです」
前日の東京国際映画祭でのプレミア上映後にあった舞台挨拶で、斎藤工さんは今回の演技について「俳優として、今まで経験したことのない、生きた時間、俳優としての進行形の自分が写り込んだ作品で、演じたという感覚も記憶もないんですね。エリック・クーの魔法にかかって、俳優業の表現としての真髄、新しい扉を開いた体験をしました。同時にフィルムメーカーとしての扉も撮影中に開いてくれて、彼との出会いの大きさを感じています」と話していました。
H:昨日の舞台挨拶で、彼もこのような役に出会って喜んでいましたね。
A:今後の役選びが変わるかもしれませんね。
監督「それに素晴らしいのは、とても人間味があって親切なところ。撮影中は私たち皆、特に女の子たちは、彼が大好きでしたが、それは彼が慈悲深いからなんです。例えばチャリティ活動。彼は毎日とても忙しいのに、時間を作ってチャリティ活動をやっていました。そういうところに彼の心の優しさが現れていると思います。感動したことといえば、こんなこともありましたね。数ヶ月前にシンガポールで彼と会った時、(監督が食通というのを知っている)彼はとても美味しい京都のガーリックチリ(平安神宮の売店でしか買えないというにんにく唐辛子かも)を買ってきてくれたんです。食べ方も教えてくれましたが、とても美味しかったです」
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