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ASICRO FOCUS file no.52

監督と出演者が語る「グエムル」の魅力と撮影秘話

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(c)2006 Chungeorahm Film.

Q:怪獣の誕生や最期の状況など、アメリカとのが関係が暗示されていて、現在の韓国のアメリカに対する空気みたいなものを感じたのですが。

 監督「数年前、沖縄に行ったことがあるのですが、沖縄には米軍基地がたくさんあります。韓国では、首都ソウルのど真ん中に、たくさんの米軍基地があります。米軍基地に関連する、あまりよくない事件もたくさん起こっています。そして、映画の冒頭にある毒物流出事件は、6年前、実際に韓国で起こった事件です。そのようなことがあったので、グエムルの誕生の背景に事実を盛り込んでみました。この映画には、アメリカをかなり諷刺しているところがあります。韓国におけるアメリカの役割という部分に、諷刺を込めて描いてみました。怪獣映画のコンセプトの中にそういったものを取り入れてみたらどうかと思ったのです。

ポン・ジュノ
 日本の怪獣映画の古典となっている『ゴジラ』にも、広島の原子爆弾の放射能によって怪獣が誕生したという背景があるので、歴史的なものと怪獣の誕生というのはこのジャンルの起点になるのではないかと思います。そういう意味で、私も6年前に実際に起きた毒物流出事件を取り上げ、要素として取り入れた訳です。

 映画が公開された時は、反米映画ではないか?という意見もありました。アメリカを諷刺しているのは事実ですが、単にそれだけに規定するのはどうかと思います。映画に出て来るのは米軍だけでなく、その他にも家族を苦しめるものがたくさんあります。たとえば社会矛盾とか、そういうものも同時に盛り込んでいるので、単なる反米映画ではないと私は思います」

 ちなみにこの作品は、9月29日より開幕のニューヨーク映画祭にも公式招待されています。

●漢江と撮影時のエピソード

Q:ソウル市民にとっての漢江とはどういうものなのでしょう?
  楽しいエピソードがあったら教えてください。

 ヒボン「普段から近くで漢江を見ているので、ほんとうに気楽に接しています。しかし、今回は『グエムル』の撮影過程で長い間漢江にいて、違った面を見い出すことができました。映画に出て来る漢江の姿は、昼と夜とではまったく違うということも、新しい発見でした。漢江は仁川の方から海水も入って来る河です。日本にもあると思いますが、ソウルにこのような河を授けてくださったのは、天からの贈り物だと思っています」

 ドゥナ「多分、ニューヨークのセントラルパークのような存在だと思います。市民にとっては憩いの場でデートの場所です。私もときどき自転車に乗って漢江まででかけ、散歩したり運動したりするので、ほんとうに親しみのある場所です。ソウル市民にとっても、身近に遊びに行ける所です。そんな漢江から、グエムルという怪物が生まれたという設定になっています」

ソン・ガンホ
 ガンホ「漢江は多くの市民にとって、散歩したり運動したりする場所です。撮影時は、始めて怪物を見るシーンや怪物と闘うシーンがありましたが、もちろん実際に怪物はいないので、私たちは空に向かって大声で叫んだり、相手がいない中で演技をします。通りがかった多くの通行人は、ちょっと頭がおかしいんじゃないの?というような顔で、ちらちらとこちらを見ていました。その時は、監督がちょっとうらめしくなりました(笑)」

 監督「漢江という場所は、映画を撮る時には苦労しました。ほんとうに公園のような存在で、普段は市民もいるので規制が難しいのです。『殺人の追憶』では、韓国の多彩な田園風景を見せたいと思い、映像的な部分はそこに力を入れていたのですが、今回は漢江という場所のいろんな面を、映像を通してお見せしたいと思っていました。ただ、何一つうまくいきませんでした。天気に恵まれなかったり、光の具合がよくなかったり、水の水位も思うようにいかず、今日は水位をあげて欲しい、今日は下げて欲しいとお願いしたいくらいでした。なかなかコントロールできないので、個人的にはちょっと悪夢のような存在として心に残っています。映画の中で漢江がどう映っているかは、観客の皆さんに評価していただきたいです。今回は50%を漢江で撮ってなかなかコントロールできなかったので、次の映画は100%スタジオで撮りたい気持ちになっています(笑)」


パク・ヘイル
 ヘイル「今、皆さんがおっしゃったように、漢江は市民の憩いの場としての存在意味が強いのですが、この映画では漢江の美しさだけでなく、その裏の部分も見せています。つまり、下水溝がたくさん出て来るのですが、漢江で休息をする人たちは見たことがないでしょう。実は汚い場所です。撮影は夏に始まって寒い冬に終わったのですが、俳優をはじめスタッフも全員、細菌に侵されないよう破傷風の注射を打って撮影にのぞみました。数10メートルの近い所で撮影したり、もっと深い所に行って撮影したり。昼間、一度河に入ると夜まで出て来られず、夜になってやっと食事ができる、というようなこともよくありました。夏は悪臭で、冬は寒さで苦労しました。もう一度、映画をご覧になるとすれば、その部分を念頭に置いて観ると、より楽しめると思います」

 アソン「漢江は家から近いので、よく友だちと一緒に遊びに行きました。週末には家族と自転車に乗って、夜景を観に行ったりもしました。『グエムル』を撮る前は、ほんとうに平和で皆が休める所というイメージだったのですが、撮った後は少しイメージが変わりました。映画にも出て来たように、漢江には恐い背景もあったり、暗い下水溝もあって、撮影の前と後では違って見えました。実際に下水溝に入ってみて、こんなにも印象が違うんだなあと感じました」(続きを読む)


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更新日:2006.9.2
●back numbers

インタビューの表記
司会・質問者
監督(ポン・ジュノ監督)
ガンホ(ソン・ガンホ)
ヒボン(ピョン・ヒボン)
ヘイル(パク・ヘイル)
ドゥナ(ペ・ドゥナ)
アソン(コ・アソン)
俳優プロフィール
ソン・ガンホ
宋康昊/Song Kang-Ho

1967年生まれ。韓国映画界の製作者や観客の間で、圧倒的な信頼と確実な利益をもたらす俳優として知られている。出演作はどれも絶賛され、観客はもちろん評論家からも高い評価を得ている。ポン・ジュノ監督に対する信頼は非常に厚く、シノプシスを読んだだけで本作への出演を決意した。

本作で、いい加減で頼りない父親という、初めての役どころを演じた。安っぽい金髪に髪を染め、サイズの合わないジャージ姿に、いつも落ち着きのないカンドゥを熱演、今まで見せたことのない新たな才能を発揮した。ジュノ監督は、「まさにここぞというシーンで、この世のものとは思えない怪物に対して壮絶なエネルギーを爆発させるソン・ガンホの姿には、多くを説明する必要はないでしょう」と語っている。
filmography
・豚が井戸に落ちた日(96)
・グリーンフィッシュ(97)
・ナンバー・スリー(97)
・バッド・ムービー(97)
 *特別出演
・クワイエット・ファミリー
 (98)
・シュリ(99)
・反則王(2000)
・JSA(2000)
復讐者に憐れみを(02)
・YMCA野球団(02)
殺人の追憶(03)
大統領の理髪師(04)
南極日誌(04)
親切なクムジャさん(05)
 *特別出演
グエムル/漢江の怪物(06)