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ASICRO FOCUS file no.52

監督と出演者が語る「グエムル」の魅力と撮影秘話

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(c)2006 Chungeorahm Film.
●グエムルのイメージはどのようにして作られたか

Q:グエムルの造形は個性的ですが、このイメージの発端は? 実際の製作を担当したWETA社やオーファネージ社に対して、監督からは質感や動きなど、どのような指示を出しましたか?

 監督「一番大切にしたのはリアリティです。この映画のグエムルの姿は、ファンタジー映画のモンスターというイメージよりも、バックグラウンドが韓国にあり、時代背景も現代で、日常生活が営まれているソウルでの話なので、日常性をできるだけ基本にして、リアリティに基づいた生物体を作りたいと思いました。デザインモチーフの出発点ですが、以前、韓国では河に汚水が流されたことで、魚に奇形が見られたことがありました。背中がちょっと曲がったような魚だったのですが、そのような奇形の魚の形に着目し、そこから出発して発展させました。

ポン・ジュノ

監督の風貌にもちょっと似ているような…(失礼!)
 また、怪物と闘う家族を演じる俳優たちは、ほんとうに韓国的な俳優ばかりで、例えばブラッド・ピットやニコール・キッドマンが闘うわけではありません。韓国の俳優たちに合う怪物がいいと思いました。つまり、アジア的で韓国的なものを作って欲しいとお願いしました。そして、このグエムルを実際に作り、スクリーンに命を吹き込んでくれたWETAのスタッフやオーファネージのスタッフにも、リアリティを強調しました。なので、あまり他の映画では観られないような怪物が、できあがったのではないかと思います。この怪物は歩き方が変だったり、歩きながら転んでしまったり、傾斜のある所をうまく歩けず転がってしまったりします。怪物であっても完璧ではなく、ときにはミスもする、というようなリアリティを表現したいと思いました。その点はディテールにこだわって注文しました。

 最終的には、怪物も1つのキャラクターなので、性格付けをしたいと考えました。簡単に言えば、ちょっと根性の曲がった10代のハイティーンという設定をして、突発的な行動をしたり、すねたりという性格も加えてみました。CGの担当者と一緒に作る時、各国の俳優になぞらえるとどうなるだろう?これをライブアクションの人に例えるとどうだろうか? 例えば、アメリカのスティーブ・ブシェミは? 日本の竹中直人は?…という具体的な名前をあげながら、作っていきました(笑)」

●俳優たちが語るポン・ジュノ監督と苦労話

Q:撮影中に最も苦労した部分と、役作りについて監督からどのような指示があったのかを、それぞれ教えてください。

コ・アソン
 アソン「グエムルにさらわれるシーンがあるのですが、最初、監督はそこはCGでやるから実際に水に入ることはないと言ってました。ところが、撮影1日前に手のひらを返したように、水の中に落ちて欲しいと言われ、裏切られたような気分になりました。(会場笑)河の位置は中くらいのところで、ほんとうにヒヤヒヤしました。とても大変で、記憶がぼんやりするくらい苦労して撮影しました。ヒョンソは私と同じといっていいほどそっくりな部分があったので、しっかりと役に入ることはできたのですが、途中でグエムルにさらわれた後、一人の男の子を助けます。その辺りでは、私だったらヒョンソのようにできるかなあと考えさせられました」

 ヘイル「ポン・ジュノ監督は、俳優にほんとうに苦労を強いる監督だと思います。(会場笑)『殺人の追憶』では、ちょっと変態の容疑者のような役を演じたのですが(笑)、エンディングのトンネルのシーンはほんとうに寒くて、体感温度がマイナス30℃くらいでした。線路も凍って、水も限られていて、そんな中で喧嘩して転がってくれと言われ…そんな撮影を10日くらいさせられました。『グエムル』では、ヒョンソの居場所を探して先輩に会いに行った後に逃げるシーンがあり、ほんとうに嫌になるくらい走らされました(笑)。終わったと思ったら『もう1回やろう』と。顔は親切で優しいんです。そんな顔で『もう1回やろう』とおっしゃるんので、とても苦労しました。ただ、完成してできあがった映画を観ると、苦労した分、ほんとうにうまく撮ってくださったと有り難い気持ちになりましたし、監督のことは憎めないなと思いました(笑)」

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俳優もスタッフも破傷風の注射を打って下水溝へ。
(c)2006 Chungeorahm Film.
 ガンホ「ポン・ジュノ監督は、演技の面では特別に俳優に注文をつけるスタイルの監督ではありません。ただ、精神的には俳優をくたくたにさせる監督だと思います。(会場笑)どのくらいひどいかというと、例えば重要なシーンを撮る時は、その5日か1週間くらい前から、顔を合わせるたびにその話をするんです。通り過ぎるたびに一言、という具合に自分のシーンについてちくりちくり言われるので、こちらも1週間前から眠れなくなってしまいます。そういう点では、残忍な注文をする監督だと思います。『グエムル』は6ヶ月半ほど撮影しましたが、簡単に撮れたにシーンは1つもありません。どのシーンもすべて、ほんとうに苦労しながら撮影しました」
 と、ソン・ガンホ氏が淡々と回答する間、ハングルのわかる人たちからは、かなり笑い声が聞こえていました。

 司会「特にどのシーンが眠れなくなるくらいだったんですか?」

 ガンホ「前作の話になりますが『殺人の追憶』で、先ほどパク・ヘイルさんが言ったように、トンネルの前でのシーンがありました。そこで、私が容疑者に対して言うセリフがあるんですが、それをどういう風に言ったらいいか、4〜5日くらい前から悩みながら考えて撮影にのぞみました。『グエムル』では、一家の父親が亡くなったシーンでの演技ですね。あのシーンも、1週間くらい前からいろんなことをおっしゃっていました」

 ドゥナ「特別に苦労したシーンはなくて、大部分が苦労しました(笑)。冗談です(笑)。女優としては、下水溝の匂いがほんとにつらかったです。それに、たくさん走らなければいけないシーンがあり、もともと監督はテイクが多い方なんですが、映画では1秒しか映っていなくても、徹夜で夜通しずっと走り続けるということもあり、体力的にとても苦労しました。それに高所恐怖症なので、漢江の橋の上で寝て起きるシーンは、泣きながら撮影しました。自分の意思ではどうしようもないことなので、ほんとうに苦労が多かったです」(続きを読む)


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更新日:2006.9.2
●back numbers

インタビューの表記
司会・質問者
監督(ポン・ジュノ監督)
ガンホ(ソン・ガンホ)
ヒボン(ピョン・ヒボン)
ヘイル(パク・ヘイル)
ドゥナ(ペ・ドゥナ)
アソン(コ・アソン)
俳優プロフィール
パク・ヘイル
朴海日/Pak Hae-Ir

1977年生まれ。デビュー以来、若手世代の中でも抜きん出た主演俳優の1人として、怯えた殺人容疑者やナイーブな好青年から、お世辞ばかりのプレイボーイにいたるまで幅広いキャラクターを演じ、毎回高い評価を受けている。

ポン・ジュノ監督とは2度目のコラボレーションとなる本作で、やや暴力的なナミルを演じている。ジュノ監督は、「パク・ヘイルは、充電満タンの電池のようです。とてつもないエネルギーに溢れている人物なのです」とコメントしている。
filmography
・ワイキキブラザーズ(01)
・フー・アー・ユー(02)
・嫉妬は我が力(03)
菊花の香り(03)
殺人の追憶(03)
初恋のアルバム(04)
恋愛の目的(05)
・少年、天国へ行く(05)
グエムル/漢江の怪物(06)
ピョン・ヒボン
邊希峰/Pyeon Heui-Pong

1942年生まれ。70年代のテレビドラマに数多く出演し、独特で風変わりな役柄を演じて、熱狂的な支持を得た。その後、ポン・ジュノ監督の『ほえる犬は噛まない』で恐ろしい警備員役を好演。それを皮切りに、俳優としてのキャリアの第2のピークを迎えている。

本作では、韓国人なら深い親近感と信頼を抱かずにはいられない父親の姿を演じきり、今まで見せたことのない姿を披露している。ジュノ監督は、「ピョン・ヒボンは熟練のベテラン俳優です。私の作品に対する彼の貢献は、常に大きなものであり続けています」と全幅の信頼を寄せている。
filmography
・女と男 愛の終着駅(87)
ほえる犬は噛まない(2000)
・火山高(01)
菊花の香り(02)
・ぼくらの落第先生(03)
殺人の追憶(03)
・吹けよ春風(03)
オー!マイDJ(04)
・シシルリ(時失里)2km
 (04)
・ラブリー・ライバル(04)
・Sink and Rise(04)
・公共の敵2(05)
クライング・フィスト(05)
グエムル/漢江の怪物(06)