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Asicro People

更新日:2005.6.23

松岡環

研究者でありながら遊び心も忘れない松岡さん

●インド映画ブーム到来!

 インド映画ブームの火付け役となったのは、『ムトゥ 踊るマハラジャ』(*11)ですよね?

 「その前に、『ラジュー出世する』(*12)が97年に公開されました。96年に、新日本映画社の人から『インド映画が好きなので、何かやりたいんだけど、何がいいでしょう?』とご相談を受けて、以前私たちが出した本『インドがやがや通信』に『ラジュー出世する』のことを書いていたので、これは面白いわよって。あまりエグ味がないから、日本人向けの第一弾としては、ソフトランディングでいいんじゃない、と薦めました。

 『では、それをやりましょう』ということになり、その人がインドセンターに頼んで輸入し、公開したのが97年でした。ちょうど同じ頃に、江戸木純さん(*13)が『今度インド映画をやるんですよ』とおっしゃっていて、それが『ムトゥ〜』だったんですね。江戸木さんが奔走されて、97年のファンタにかけて大人気だったので、98年に満を持して公開したら大当たりだったんです。」

 最初はファンタステイック映画祭からでしたね。

 「そうですね。最初のブレイクはファンタなんだけど、その前段階として『ラジュー〜』が下地を耕していて、その前々段階として、日本にいるパキスタン人などが行くビデオ屋さんでビデオを借りている日本人たちがいて、インド映画ファンがある程度いたんですね。私がやっていたシネマ・アジアもそうだけど、インド映画ファンがある程度いて、『ラジュー〜』になり、『ムトゥ〜』で化学反応を起こして爆発した。そういう感じでしたね。それから、香港映画がちょっと落ち込んでいた時期だったので、香港映画ファンがファンタでどっとインド映画に流れたようでした。」

 『ラジュー出世する』のシャー・ルク・カーン(*14)はスター性がありますし、日本でも人気があると思うのですが、その辺は狙っておられたのでしょうか?

 「シャー・ルク・カーンは私も好きですが、『ラジュー出世する』が上手に作ってある作品だったんですね。いわゆる勧善懲悪なんだけど、ちょっとひねりが入っているし、ヒーローとヒロイン、プラス脇にナーナー・パーテーカルという、ちょっといい人が一人出ていて、あの人の使い方もうまいと思った。それから歌も踊りも平凡なのもあるけど、ちょっと光るのもあるし、これはいけるんじゃないかと思いました。」

 それからしばらくはブームでしたね。

 「そうですね。98年がピークで、99年まではその影響があったんですけど、その後でちょっとトラブルが続いたせいもあり、あまり公開されなくなってしまったんです。」

 それはもったいない。これからどうするんですか?

 「また、季節が巡って来るのを待つしかないですね(笑)。」

 最近では、歌や踊りが入らない作品や、普通の長さの映画も作られているようで、それはそれで面白いかなと思っていたのですが。(インドレポート参照

 「そうですね。ホラー映画などが流行した頃から、歌が入らない作品でもヒットするようになりました。でも、究極的にやっぱり歌や踊りの形式は捨てないのがインド映画なので、最終的には歌や踊りというスタイルは残ると思いますよ。」

 今でも900本前後の制作本数を維持しているインド映画産業界。最近では、新しい監督も登場し、特にボンベイでは若手による世代交代が進んでいるとか。ただ、俳優だけはあまり世代交代が進んでいないようで、未だにシャー・ルク・カーンが一番人気を誇っているそうです。約3時間という上映時間の長さも、日本の劇場でなかなかインド映画が公開されない一因となっているようですが、新しいインド映画がまた観られるようになって欲しいものです。

●韓国映画と韓国体験

 最近は韓国映画の方もやってらっしゃいますよね?

 「そうなんです。韓国映画のお仕事しか来ないんですよ。(苦笑)」

 韓国映画をご覧になるようになったきっかけは?

 「韓国映画も、80年代の、アン・ソンギなどが主演のニュー・ウェーブ作品の頃から観ていました。ただ、韓国へは行ったことがなかったので、ここ2年くらいで急いで韓国の勉強をして、やっと去年、初めて韓国へ行きました。韓国語は行く前の3日間で勉強したんですよ。文字も書けるようにして、役に立つ会話の文章を友人にカタカナで書いて教えてもらったりしました。

 韓国に着くと、最初にリムジンバスに乗るのですが、リムジンのおじさんに『オディ・ガセヨ?』(何処に行くんですか?)と聞かれて理解できたので、やった〜!これで大丈夫!と思いました(笑)。もう、ほとんど、オプソヨ(ありません)、イッソヨ(あります)、〜ジュセヨ(〜下さい)、で切り抜けました。」

 ハングルを習ったことはないんですよね?

 「ないんです。ちゃんと習いたいんですけどね。でも、ハングルは1字ずつだけど読めるし、辞書も引けるし。80年代からずっと変化を観ているから、今の映画はこうなのかというのがわかって面白いです。それから、2月にソウルへ行った時に、フィルム・アーカイブで40年代の作品も観てきました。」

 最近、ご覧になって面白かった作品は何ですか?

 「『マラソン』(*15)が最近では一番ヒットですね。2月にソウルへ行った時に観てきて、すごく気に入りました。」

 俳優ではどなたがお好きですか?

 「一番好きなのは…ユ・オソンかな(笑)。イ・ジョンジェも好きだし、ヤン・ドングンも、チョ・スンウも好きです。ルックスよりも演技の上手い人が好きなんです。韓国四天王と言われている人たちの中では、ウォンビンがいいかな。それと、感心したのは『スキャンダル』のペ・ヨンジュン。彼は上手いと思いました。」

 では、しばらくは韓国映画をメインでやられるのでしょうか?

 「韓国映画もだけど、東南アジアの映画もタイとか、最近ではマレーシア映画やインドネシア映画も面白くなっているので、それも観なくてはいけなくて大変です。インド映画はもちろんカバーしなくちゃいけないし、中国語圏映画も好きだし…もう、どうしよう〜って感じ(笑)。」

 それらはどうやってご覧になるんですか?

 「旅行先でVCDを買ってくるんです。香港だとインド映画は買えるし、韓国映画もある程度出ているし、タイ映画も手に入ります。シンガポールだとマレー語の映画とか、シンガポールの映画もありますし、ときたまインドネシアの映画も手に入ります。」

●これからのアジア映画と抱負

 今、どこの映画が面白いですか?

 「タイがけっこう面白いですね。コメディだったり、いろいろなんだけど、なんか面白いことをやってるなあという感じでね。あと、中国映画も面白いです。中国のインディーズ系の映画が面白いんですよ。先日の香港国際映画祭で上映された『モンゴリアン・ピンポン(原題『緑草地』)』はよかったですね。東京フィルメックスで上映された『香火』のニン・ハオ(寧浩)監督の作品なのですが、今度は内モンゴルが舞台なんです。

 悪ガキの男の子が3人いて、草原でピンポン玉を見つけるんだけど、ピンポンなんて知らないから、これは何だろう?神様の宝物かもしれない…て言って、そのピンポンを巡っていろんなお話が展開していくんです。最後に、街の学校に行ってピンポンが何かわかるんですけどね。少年たちがモンゴル草原を馬に乗って走るんだけど、一人の子はバイクに乗って駆けたりとか、今の内モンゴルが上手に描いてあって、子どもたちのメルヘンと大人たちの現実生活の按配がとてもよくて、面白い映画でした。」

 これからのアジア映画はどうなっていくでしょう?

 「希望としては、韓国映画だけでなく、香港映画や東南アジアもインドも、まんべんなく観られるようになって欲しいと思います。「アジアの映画」というよりも、ただの「映画」として観て欲しいですね。」

 では最後に、これからやってみたいこと、また読者へのメッセージをお願いします。

 「今後は、日本にアジア映画が受け入れられた歴史を研究してみたいです。映画を通じて日本人が形成したアジア・イメージとか、100年くらいの間の変遷を調べてみたいですね。アジア映画はどこを観ても面白いし、いつもどこかで面白い動きが起きているので、そいう面白いもの好きの好奇心旺盛な人には、格好の対象だと思います。なので、偏見なく観て欲しいですね。」

(2005年5月12日 渋谷Bunkamura のカフェにて)

 長年、アジア映画を見つめて来られただけに、今後の計画はその集大成となるのではないでしょうか。また、学問としての映画研究だけでなく、純粋に娯楽として楽しむ柔軟さも持っておられるので、わくわくしながら、新しい対象にも飛び込んでいかれるのだと思います。ちなみに今、かなり注目しておられるのは、これから日本でも大旋風を巻き起こしそうな台湾のF4とか。さすが、松岡さん。守備範囲が広くて、うれしくなってしまいます。


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●back numbers
*11:
『ムトゥ 踊るマハラジャ』

98年作品。
監督:K・S・ラビクマール
主演:ラジニカーント、ミーナ

ムトゥ 踊るマハラジャ

ムトゥ 踊るマハラジャ

DVD/ポニーキャニオン
ワイドスクリーン版
3990円


*12:『ラジュー出世する』
(92年・ヒンディー語)
監督:アズィーズ・ミルザー
主演:シャー・ルク・カーン、ジュヒー・チャーウラー、ナーナー・パーテーカル
大学を卒業して、一旗揚げるためにボンベイにやって来たラジューの恋と出世の物語。ビデオは廃盤になっているが、レンタル店で発見可能。
*13:江戸木純さん
映画評論家。幅広いジャンルのアジア映画を紹介。近年では『王様の漢方』(02年)を日中合作でプロデュース。今年はインドネシア映画『ビューティフル・デイズ』(02年)の配給も手がけている。
*14:シャー・ルク・カーン
1965年デリー生まれ。TV俳優として活躍した後、92年に映画デビュー。以後ヒット作が続き、95年の『DDLJ/ラブゲット大作戦』で大ブレイク。今日に至るまでトップスターの座に君臨している。
*15:『マラソン』(05)
今年の1月末に韓国で公開されて以来、500万人の動員記録を作った感動作。7月2日より日本でも公開予定。
*詳細はアジクロシネマへ。
●松岡さんのおすすめ作品

アルターフ

アルターフ/復讐の名のもとに

DVD/ソニーピクチャーズ
3990円


ラガーン

ラガーン

DVD/ソニーピクチャーズ
3990円


●松岡さん関連サイト
インド通信