Q:安藤政信さんとビビアン・スーさんの印象や撮影中のやりとりをお聞かせください。
監督「まずビビアン・スーですが、彼女はもともとタイヤル族の出身です。アプローチしたら即答でした。ギャラは一銭も受取らず、逆に資金を貸してくれました。ほんとうに感謝しています。『どうして?』と尋ねると、『自分の出身の部族の皆さんのために、何か仕事をしたい』ということでした。現場でも一切スターみたいに格好をつけることなく、皆と雑談をしたり、ご飯をたべたり、お茶を飲んだりしていました。
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安藤さんの場合は、ちょっと事情が違います。日本人だし、役柄も日本人。とにかく、この役柄に関してしっかりとコミュニケーションがとれないと、なかなか出演に応じてくれません。相当な時間をかけ、一生懸命コミュニケーションをとった結果、引き受けてもらえました。いったん引き受けたら、ものすごく全力投球でした。例えば、我々にこういう要求をしました。『今、セデック族の学生が日本に留学していませんか? もしいれば、その人を紹介してください。その人についてセデック族の言葉を勉強したい』つまり、映画の中ではセデック族の言葉を使ってセリフを言いたい、と。そこで、3ヶ月かけてセデック族の言葉を一生懸命勉強しました。
台湾の皆にとって、安藤政信さんは特別な存在じゃないかと思います。ある意味、大スターですよね。知名度もありますし。ところが、台湾にやって来た時は、マネージャーも付けず一人でした.。私たちは通訳を一人付けてあげましたが、とにかく一生懸命出演してくれました。オフの時には一人で写真撮影をしたり、お茶を買って来てくれたり。ちょっと、不思議な日本人だなあと思いました(笑)」
Q:今、台湾には平地の台湾人の方、原住民族の方、国民党の兵士と一緒に来た外省人の方がいて、その中には族軍問題や価値観、思想的な違いもあると思います。こういうものに対するメッセージも描かれていますか?
監督「もちろん、そうです。私は台湾で『混乱した価値観』という言葉をよく使うのですが、これは最も大事にしている価値観でもあります。台湾にはいろんな民族が暮らしていて、価値観も多種多様です。たとえば過去100年の間に、様々な政権統治を経験してきました。政権交替をする時に価値観も変わってくるわけで、そういったことを経験した台湾の人たちは、だんだんと新たな1つの秩序を見つけてきた、あるいは形成してきました。
例えば、私自身はとにかくとても前向きで、いい方向へ、いい方向へと、ある種のロマンを持って考えるようにしています。台湾の人たちは自信を持つことが大事です。今日の台湾で暮らしているいろんな民族、いろんな部落、あるいはグループの人たちは、個性がはっきりしているし、それぞれのカラーもけっこう出しています。
『海角七号』でも『セデック・バレ』でも、虹の話をしました。なぜかというと、虹は独自のカラーが集ってできているからです。私は虹色の価値観と呼んでいます。せっかく、こういうような経験をして、台湾独自の価値観を形成しているので、今後、政治的な理由、あるいは経済的な理由でこういった価値観が影響され、破壊されることだけは、どうしても避けて欲しいという気持ちでいます」
Q:次回も日本統治時代の映画で、台湾の野球チームが甲子園に出場する作品をプロデュースなさると聞いてます。それにはどのような願いを込められますか?
監督「1931年の台湾を舞台にした映画です。当時、野球は日本人しかやっていませんでした。台湾の人たちは野球をやらなかったのです。たまたまその時、純粋に健康やスポーツを理由に、漢民族と台湾の原住民と日本人がチームを結成しました。
最初は純粋に健康のためにということで始まったのですが、ある日、日本からあるトレーナーがやって来ました。彼はスパルタ方式を導入してチームの皆を訓練しました。2年間、訓練をした結果、なんとこのチームがとても強いチームに生まれ変わり、台湾地区での試合でトップになりました。さらに台湾を代表して、当時、甲子園で開かれた大会に出場することができました。
この大会には台湾チームもよく出場していたけれど、大体1回戦で敗退して帰国します。ところが、どんどん勝ち残り、最後の1、2位を争うところまで行きました。最終的には…この話はしていいのかな…投手の爪が割れてしまい、結局試合には負けるのですが、2位になりました。でも、台湾の野球の質を高めるという意味では、決して負けていません。こういうお話を、今度の作品で紹介します」
司会「最後に、映画の見どころとメッセージをお願いします」
監督「テーマが歴史ドラマなのでどうしても重たい感じがしますが、映画を観るとわかるように、決して退屈な映画ではありません。テンポもいし、内容もいいし、居眠りする人はいないと思います。たとえ、昼食を食べてから観ても、多分眠らないと思います。そして、このような映画を通して、今の台湾、過去の台湾、今の私たちが直面している様々な文化、価値観の問題だけでなく、過去にも実は同じようなことを経験し、直面していたと、ということを知っていただけたらと思います」
ダーチン「この映画にはたくさんの素人が起用されています。特に原住民、私自身もそうですが、皆が一生懸命演技をした映画です。実は撮影期間中、たくさんの役者が怪我をしたり、資金問題で完成が危ぶまれたこともありましたが、とにかく、皆全員が信念を持って映画を完成させることができました。こういうお話は、映画本編だけでなく、メイキング映像をご覧になると、もっと製作の舞台裏を知ることができますよ」
ということで、映画に込めた思いから、次回作のネタばれ(?)までに話が及んだ記者会見でした。最後にダーチンが話しているように、本作は完成までの道のりも長く、また製作中の裏方の皆さんの苦労も大変なものでした。DVDとなってリリースされる時には、そのメイキング映像も収録されることを祈ります。また、当時の数々の撮影秘話やエピソード、関わったスタッフの苦労話は、公式ブログ(日本語版)にたくさん掲載されていますので、ぜひそちらもご覧ください。製作者として応援に駆けつけたジョン・ウー監督や、霧社街のロケ・セットの様子などが見られます。
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