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ASICRO FOCUS file no.195

『KANO 1931海の向こうの甲子園』来日記者会見

Q:最後のシーンで、船の上で甲子園の土を掲げるシーンがありますが、あれは本物ですか?

 マー「あれは違います。資金の問題でそれはちょっと無理だったので、甲子園の黒い土を表現するために、美術スタッフがかなり苦労をして作ってくれました。黒い土と白い砂を混ぜて、なるべく甲子園の土を再現するようにしました。試合の場面ではタイヤをつぶして土に混ぜ、当時の雰囲気を出すようにしました。

 最初は台湾の別の所にある黒い土を使ったのですが、そこの土地は暑いので太陽に灼かれると土が白っぽくなってしまいました。それで、タイヤを砕いて白い砂と混ぜ、工夫したんです。白い土がちょっと混じって、なかなかいい感じに仕上がりました。選手がダーっと走ってくると白い土埃が舞い上がり、その部分は映画的に格好よく撮れたと思います。甲子園の黒い土はほんとうに貴重な記念すべき土なので、非常に気をつけて再現しました。

 また、甲子園を撮るというのはとても難度の高いものでした。当時の甲子園と今の甲子園は違うからです。我々が撮ったあの甲子園は初代の甲子園です。今の甲子園とはぜんぜん雰囲気が違います。その初代の甲子園を再現するために、様々な関係者、特に朝日新聞の方々に教えて頂き、なるべく初代の甲子園に近づけるようにしました」

●呉明捷役のツァオ・ヨウニン(曹佑寧)について

Q:呉明捷役のツァオ・ヨウニン(曹佑寧)さんは、現実世界でも大活躍をされており、U21のワールドカップで台湾代表に選ばれ、レギュラーでも活躍し、台灣代表の中心選手として最後の決勝で日本代表を見事撃破しました。大会のベスト9にも選ばれて驚きましたが、彼の活躍ぶりをどう思われていますか?

 マー「日本の皆さん、すみません。今年の優勝は我々がいただきました(笑)。キャスティングについては、高校球児を演じるということで高いハードルがありました。まず、今現在野球をやっている人、あるいは野球経験のある人、この2つの条件がありました。それからキャスティングを進めていったのですが、とにかくこの映画は甲子園に出場するほどのチームの話なので、ほんとうに説得力のある技術力を持つレベルでないと映画になりません。

 呉明捷を演じたツァオ・ヨウニンは、小中高大を通じてナショナルチームの選手でした。この映画のために、彼は1年間休学することになったのですが、その時、彼の父親はすごく反対しました。1年間も休んでしまうと、野球が疎かになると心配したのです。しかし結局、ツァオ・ヨウニン自身が『この1年間は時間の無駄ではなくて、勉強しに行くんだ』と父親を説得し、撮影に参加してくれました。

 彼のような若者が外で経験を積んで、広い視野を持つということは、とてもいいことだと思います。今回、この『KANO』の撮影後、彼はやはりナショナルチームの選手に選ばれて活躍し、優勝までいきました。彼の活躍ぶり、奮闘ぶりの中に、KANOチームのスピリットが生きているのではないでしょうか。彼の活躍をとても喜んでいます」

 ウェイ「私ももちろん、彼の活躍ぶりを喜んでいます。実は今回のプロモーションに彼も一緒に来日する予定だったのですが、ちょうど野球の練習があるということで、彼の選択を尊重しました。映画の撮影は終わっているので、彼も自分の専門である野球の世界に戻り、野球の分野でいい成績を上げて欲しいと思いました。『海角七号』、『セデック・バレ』、そして『KANO』と撮ってきましたが、やはり一番感銘を受けたのがチーム力です。その中で彼らのような若者も団結力を会得して行ったと思うし、他人とどういう風に渡りあっていくかという人との付き合い方も、映画の撮影の中で学べたと思います。きっと彼も、いろんなことを学んで行ったことでしょう」

 マー「永瀬正敏さんが言ってました。もし、ツァオ・ヨウニンが日本の野球界に入って活躍したら、毎回全部観に来るからと。その時は、皆さん、ツァオ・ヨウニンの活躍を宜しくお願いします。盗撮しても大丈夫ですよ(笑)」

Q:彼は野球選手であるべきか、俳優であるべきか、どちらだと思いますか?

 ウェイ「その問題については、彼と話したことがありますが、私は両方とも手に入れるよう努力すべきだと言いました。専門分野だけではなくて、自分が好きなことは両方手放さないで頑張ればいいじゃないかと。好きなことをするために必死で頑張るのは、仕事をする上でも非常にいいことです。どちらかを選ぶのではなくて、両方とも頑張ればいいと思いますね」

 マー「やはり、両方やるからには両方ともきっちり、しっかりとやるべきだと言いました。彼はよく僕に連絡をくれるのですが、非常に礼儀正しい、いい子なんです。有名になったからといって驕り高ぶることもなく、ほんとうに素直な若者です。だから、両方やるのであれば、両方頑張るべきですね」

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●残念だった金馬奨

Q:有力視されていた金馬奨が無冠に終わったことについて、中国への配慮という報道が日本へも伝わっていますが、率直な意見をお聞かせください。マー監督は歴史的なことというよりも、まず映画を観てから判断して欲しいと話しておられたそうですね。

 ウェイ「ちょっと、言いづらいですね(苦笑)。毎回、ノミネートされるたびに、全てのスタッフとキャストにメールを送っています。ノミネートはされているけれど、こうして皆で力を尽くして映画製作に取りかかり、そしてやり遂げた、こんな素晴らしい映画を撮ったことが一番大事なんだ。誠心誠意を尽くして作ったことを皆に知ってもらおうという気概があればいいじゃないかと。受賞する作品は毎年テイストが違っており、その時の雰囲気によって変わるのではないかと思いますね。

 授賞式の前に、観客賞と国際批評家連盟賞を頂いていたので、受賞できなくても気にしなくていいと思っていました。ところが当日、受賞できなかった時はちょっとがっかりしてしまい、やはり気にしてたんだなと(笑)。しかし、作り上げるプロセスが一番大事なんだとも再確認しました。嘉義農林は甲子園の決勝で準優勝になりましたが、甲子園にいた5万人の観衆を大感激させたわけです。チーム力が生んだ感動は素晴らしいものでした。それと同じように、受賞するかどうかの点数を気にするのではなくて、観客にどのようなスピリットを伝えるのかが大事なのだと思います」

 マー「僕もウェイ監督とほとんど同じ意見ですね。映画を撮る最終的な目的は金馬奨ではないので。なんといっても、観客に受け入れてもらう、観客に喜んで観てもらうことが、映画製作者にとっては一番大事なことです。この映画で一番伝えたかった信念は、試合に負けても自分に勝つんだということ。決して諦めないというメッセージをこの映画に込めていますが、それと同じです。ノミネートされたこと自体は、自分でも嬉しかったし、スタッフやキャストがノミネートされたということは、その努力が認められたわけで、僕自身も嬉しく思っていました。自分自身については、賞がどうこうというよりも、映画でいろんな人と交流できることが嬉しかった。ただ、努力した結果がそこに出れば、より嬉しいですが…金馬奨については、僕の姓がマーだから、まあそれでいいんじゃないかな(笑)」(場内笑)

 今回のプロモーションが金馬奨の受賞発表直後ということもあり、やはり多少の落胆はあったようです。前評判が高かった分、期待も大きかっただろうし、スタッフやキャストの努力に報いたかったという気持ちもあるのでしょう。でも、それはそれ。国際批評家連盟賞、さらに3つの観客賞受賞が、この作品の素晴らしさを証明しています。

●日本との関係にこだわる理由

Q:『海角七号』、『セデック・バレ』と立て続けにヒットしていますが、以前に、台灣と日本の関係で自分もあまり知らなかったことにちょっと愕然として、映画を作り始めたと聞きました。それがこういう形で台湾でヒットしていることについてどう思いますか?

 ウェイ「私の考えですが、なぜ観客が映画館へ映画を観に行くかというと、その映画が素晴らしい、面白いということもありますが、私がこれまでに撮った3本の作品がなぜ日本との複雑な関係からスタートしているかというと、近代史を振り返えなければならないと思い至ったからなんです。台湾の近代史を振り返る時、やはり日本との繋がりがクローズアップされるべきです。日本と中国が台湾に与えた影響は、台湾の近代史にとても大きな意味合いを残している。そこに注目するべきだと思ったのです。台湾とはどういう土地で、台湾人とはどういう人たちなのか、あまり見えていないように思ったので。

 では、それをどこから見るかというと、過去です。まず、日本の統治下にあったという日本との繋がりから紐解いていく。日本との関係がこうだったから、台湾は今こうなっていると。もうひとつは中国との繋がりです。この2本の線からたぐり寄せて、台湾の真実、台湾の存在感を確認していく作業が目的でもありました。現在社会の様々な要素はどこから始まっているか、それは過去からです。例えば今、包帯でくるまれていたものを剥ぎ取ってしまったら、やっと自分たちの本当の顔が見える。そういうことが言えます。台湾人のアイデンティティについて考えるのです。

 今、台湾人は生きるために生きているような状況ですが、なぜ生きるのか、なぜ存在しているのか、を考えることが重要です。そこに私は使命感を感じました。台湾の人たちに、なぜ自分たちはここに存在しているのか、ということを考えて欲しい。そして、まずは自分の出自、自分がどういう人たちで、だから今どうなんだ、ということをきちんと理解してもらいたいと思いました」

 司会「最後に一言ずつメッセージをお願いします」

 マー「この映画を通じて言いたいのは、より多くの人たちに自分の過去を知ってもらいたいということ。今は往々にして未来に目を向けがちですが、過去を知ることがいかに重要かということを、この映画を通じて考えていただければと思います。大事なのは映画が伝えるメッセージ、信念です。どこにいても、何をしていても、どんな状況にあっても、諦めずにやり続ける。そのメッセージが伝わることを祈っています」

 ウェイ「映画の原点に戻って、この映画自体が素晴らしいと思っていただければ嬉しいです。笑いがあり、涙もあります。また呼吸をすること、呼吸のリズムも、この映画を観て思い出してください。辛い時、あるいは何らかの選択や決断を迫られる時に、かつて『KANO』という映画を観たこと、決して諦めないというメッセージがあったことを思い出していただければ幸いです」(拍手)

 ということで、予定よりも長くなった記者会見をたっぷりお届けしました。アジクロでは引き続き、15日に予定されているジャパンプレミアの模様、そして、マー・ジーシアン監督、ウェイ・ダーション プロデューサーの単独インタビュー、さらにツァイ・ヨウニン&チェン・ジンホンの単独インタビューも順次掲載予定です。映画と合わせてお楽しみください。


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▼マー・ジーシアン監督 ▼ウェイ・ダーションプロデューサー ▼ツァオ・ヨウニン&チェン・ジンホン


更新日:2015.1.14
●back numbers
●記者会見の表記

司会・質問者
ウェイ(ウェイ・ダーション)
マー(マー・ジーシアン)
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