いよいよ1月24日より日本公開となる『KANO 1931海の向こうの甲子園』。プレミアイベントに先駆ける昨年12月に、ウェイ・ダーション(魏徳聖)プロデューサーとマー・ジーシアン(馬志翔)監督が先行プロモーションで来日し、東京では初の記者会見が開かれました。『海角七号/君想う、国境の南』『セデック・バレ』に続いて台湾と日本との関係を描き、今回は製作に回ったウェイ・ダーション監督と、俳優でもあり、今回が初の長編映画としてメガホンを託されたマー・ジーシアン監督の熱い第一声をお届けします。
製作を担当したウェイ・ダーション監督(左)と監督を任されたマー・ジーシアン(右)
2014.12.1 乃木坂にて
まずは、司会者からの代表質問でスタート。
司会「この映画の企画のきっかけを教えてください」
ウェイ「2006年にこの話を知り、まず脚本を完成させようと思いました。それから『セデック・バレ』の撮影に入り、その後で、もう一度脚本を練り直し、推敲して行く中で完成させるという、ごくシンプルなプロセスでした」
司会「この歴史はどこで知ったのですか?」
ウェイ「『セデック・バレ』の製作段階です。映画のカット割台本を書いている時に、資金難に遭いとても困っていました。それでも諦めずに書き続けていたのですが、あまりにも疲れたので、ちょっとブラブラしようと街へ出かけて本屋に入りました。そこである本に目が留まったのです。それは1931年の歴史を書いた本でした。『セデック・バレ』が1930年の話なので、1931年はどんな年だったのだろうと興味が湧いたのです。それが始まりで、その時は特に嘉義農林というよりも、1931年という年に惹かれていました。ところが、その本を読み進めると、とても面白く、台湾で初めての野球チームが甲子園まで行ったという歴史の奇跡を知ってとても興奮しました。その時にこの映画の製作を思い付きました」
司会「プロデューサーがそのようなことを考えていると知った時はどう思いましたか?」
マー「クリエイティブな仕事をする人は、ごく単純な機会で閃くものです。僕もその物語にすっかり魅入られ、ぜひ皆でしっかり撮らなくてはと思いました。映画の中で、ある信念を伝えたいと思いました。我々は、つい未来に期待してしまいがちですが、振り返ってみると、過去にも人を感動させる何かがある。ウェイ プロデューサーが感動したように、台湾初の野球チームが甲子園に行ったというのは、我々の誇りでもあります。そのように、歴史を振り返るべきだと思いました。そうすることで、台湾の人々に前に進む勇気を与えてくれるのです。日本の台湾統治時代は50年に渡りましたが、その中にも、台湾と日本で一緒に築いた共通の記憶があった。それを再認識させてくれる物語だと思いました」
ここからは、集まった記者による質疑応答です。
●マー・ジーシアンに監督を任せた理由
Q:今回はなぜ、監督ではなく製作にしたのですか? マー監督に託した理由は?
ウェイ「この映画はなんとしても完成させたかったので、自分が監督でなくてもよかったのです。だからプロデューサーとして、自分が手を出すべき時は出し、他の人に譲れる所は譲りという風に考え、とにかく映画を完成させることを第一に考えました。特にこの『KANO』については、実は私自身、野球のことをあまりよく知りません。基礎は知っていますが、熱狂的なファンではないし、球場でどういう風に試合が運んで行くのか、あまり知識もありません。まず、野球について熱狂的に取り組める人が監督をやるべきだと考えました。
そこで、マー監督が以前に職業野球チームに属していたと知り、もしかしたらこれは、マー・ジーシアン監督がやれるんじゃないか、やってくれるかもしれないと思ったのです。それから、彼がこれまでに撮ったテレビ作品を観て確信しました。テレビも映画も機材やメディアが違うだけで、演出力に基礎があればまったく問題ありません。もし私が撮るとすれば、人間ドラマの部分は撮れると思いますが、野球のシーンでは多分、皆寝てしまうでしょう(笑)。だから、野球を熟知した人が撮った方がいいと思ったのです」
Q:監督を託された時の気持ちは?
マー「とても嬉しかったですね。凄いプレゼントを戴いたと思いました。小さい頃に、すごく欲しかった素晴らしい贈り物をもらった時の興奮と同じで、ほんとうに『やった!すごい!』ていう気持ちですね。そして初めて脚本を読んだ時、パソコンで読んだのですが、涙と汗でキーボードがぐちゃぐちゃに濡れるほど感動しました。小さい頃、野球をやっていた時の興奮が、完全に蘇ってきました。だから、このチャンスをしっかり掴んでやり遂げようと思いました。
一方で、果たして自分にできるんだろうか?という不安も押し寄せていました。でもこれは、自分で一生懸命に頑張るしかないと思い、そのために、たくさんの勉強をしました。また、僕がやりたいという信念を、チームのスタッフ皆がすごく支えてくれました。スタッフやその他の皆さんに感謝したいです」
俳優でもあるマー・ジーシアン(右)はセデック族出身。
●各地での反応と八田與一について
Q:本作は台北映画祭、大阪アジアン映画祭、台湾金馬奨で3つの観客賞を受賞しています。マー監督はアメリカから戻って来たばかりですが、各地の観客の反応はいかがでしたか?
マー「自分で言うのはちょっと照れくさいんですが、いろんな所で上映するたびに、いろんな反応をもらっています。とても素晴らしいと言ってくださる方もいれば、もちろんちょっとけなす方もいます。しかし、相対的にみると、素晴らしい反響ばかりでした。特に大阪アジアン映画祭での反響はもの凄く、その熱狂ぶりは台湾で上映した時よりもっと感動的でした。
今回のアメリカ巡回上映では、アメリカ人だけではなく、地元にいる台湾人や日本からアメリカに来ている方も観てくれまして、いろんな方が観に来てくれたことに驚きました。映画には国境がないと確信しましたね。映画は一つの共通言語となって、どこの国へ行っても心を通い合わせることができる。そのような、素晴らしい反応をしてくれた観客の皆さんに心からお礼を言いたいです」
Q:八田さんのエピソードを盛り込んだ意図は?
ウェイ「八田與一については、一度映画を撮りたいと思っていました。実は、最初に脚本を考えた時は、1931年の嘉義農林の野球チームにもっと焦点があたっていたのですが、それだけでは何か土地との結びつきが足りないような気がしました。そこで、たまたま映画にしたいと思ってはいたものの、撮影面での難度が高かった八田與一の物語を、嘉義農林のお話と結びつけて脚本を書こうと思い立ったのです。八田與一が設計して作った嘉南大の話を入れることにしました。この嘉南大が完成した時期と、嘉義農林が甲子園に行った時期はほとんど差がありません。ほんの半年くらいしか違っていないので、この2つを結びつけても映画として成立すると考えました。
嘉南大というダムができて、現地の農業の収穫高に大きな効果をもたらした。それまでの10倍になるという歴史的なことがありました。そして、嘉義に噴水ができた。これも同じ頃にできています。この1931年という年に、全てのことが水をキーワードに結びつけられています。嘉義農林は農業学校なので水と関係があります。その農業学校のチームが甲子園に行った。そして、ランドマークとしての噴水ができた。工業、農業、野球、この3つが結びついた。そこに人と土地とを結びつけるドラマが生まれたわけなんです。嘉義農林が普通の高校ではなく、農業学校だったというのがポイントですね。そういう風にして、歴史的な事実をいくつか結びつけていきました」
●甲子園について
Q:初めて甲子園の土を踏んだ時の感想を教えてください。
マー「甲子園については小さい頃から聞いていましたが、行ったことはありませんでした。この映画を製作することになり、春の選抜大会を観に行きました。その時に感じたのは、観客の熱気と球児たちの熱い闘いぶりで、そこに感動しました。やはり、映画を撮るには何かに感動することが必要です。
2度目に甲子園を訪れたのは、今年の夏です。決勝戦を観るためで、映画に出演した少年たちと、台湾の優勝チームの選手たちを連れて行きました。その時、ウェイプロデューサーが台湾の優勝チームに『ここで勝てると思うか?』と尋ねると、彼らは『負けないと思う』と答えました。『こんなにすごい声援を送ってくれる野球ファンの人たちがいたら、僕らも必死になって闘い抜けると思う』と言って感動していました。我々も80数年前に僕たちの先人がこの場所で、この甲子園で、あんな素晴らしい闘いをしたんだということをひしひしと感じて、本当に素晴らしい訪問でした」
ウェイ「私自身も今年初めて甲子園を訪れましたが、甲子園という素晴らしい場で闘うために、球児たちがどれだけ鍛えてきたか、どれほど努力して闘っているかという姿をよく見ることができました。しかし、球児たちの闘いぶり以外に、観客たちが作り出す奇跡というものを、甲子園に行って初めて実感しました。あのような、心の底から湧き上がってくるような声援を送ることによって、グランドを走り回り、球を追い、打撃をするといったプレイの奇跡を観客たちが作り出していると思うのです。
台湾でもこのような状況があれば、野球選手は自分の力よりもっと素晴らしい闘いぶりをするでしょう。私自身、野球の試合をして、脚が折れ、手に怪我をしても、あれだけの声援を送ってくれたら、本当に必死に頑張ってしまうと思います。この映画でも、呉明捷が手に怪我をしながら闘い抜きました。あれと同じことを自分もすると思います。なぜかというと、あの観客の応援の凄さですね。私が思うに、甲子園の持つパワーの半分以上は観客が作り出したものではないでしょうか」
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