Q:撮影中は、ウェイさんから何かアドバイスはあったのですか?
監督「多分、いろいろ言いたかったようですが、ちょっと控えておられたようですね。言っても僕があまり聞かなかったから(笑)。経験というものは、自分で経験しないと身に着かないものですが、僕にとって一番幸運だったのは、ウェイ・ダーションというエグゼクティブ・プロデューサーが監督だったことです。
ウェイさんは、具体的な撮影法など、現場で細かくいちいち意見を言うようなことはしませんでした。ただ、技術的なことも、自分の経験はこうだったという風に話してくれました。おかげで、僕は回り道を避けることができ、とても有意義でした。経験を教えていただいて、とても感謝しています。
だけど、あまりにもいろいろと意見を言われて、自分で納得できない時は聞きませんでしたね(笑)。プロデューサーですから、ちょっと違う視点で見ているんです。お金のこともあるので、いつも早く撮りなさいと言われていました(笑)。でも、譲れないところは譲りませんでした(笑)」
Q:『KANO』は3時間の大作ですが、最初から3時間くらいになると決まっていたのですか?
監督「3時間は予想外でした(笑)。ちょっと長過ぎたかもしれませんが、べつに契約で決まっていたわけではなく、長くなってしまったのです。でも、長過ぎると感じさせない作品に仕上がっていると思います。普通、3時間と聞くと観客は尻込みしますよね。でも、その代わりに、この映画を観てそれだけの価値があると思っていただければと。例えば、何かに悩んでいる時、その悩みに正面から立ち向かっていける勇気を、この作品は与えることができると思うんです」
●こだわりのシーンと演出
Q:自分なりにこだわった、好きなようにできた会心のシーンは?
監督「野球シーンです。なんといっても、こんな風に野球シーンが撮れた映画は今までなかったと思います。いろんなアイデアが湧いてきましたが、それを実際に実行してくれたのはスタッフです。今回の野球シーンの成功は、台湾のスタッフ、そして参加してくださった日本のスタッフの力を結集してできたから。彼らがいなければできませんでした。野球の試合と同じですね。三塁打を打って三塁まで出塁しても、後の人がちゃんとヒットを打ってくれないと、僕はホームに帰ってくることができません。だから、この嘉義農林の選手たちと同じで、団結力、チーム力で勝ち取った勝利なんです」
Q:キャスティングも見事で、選手役の方たちはほとんどの方が演技は初めてだったと思いますが、皆さんとても個性的で役者さんのように見えました。どのように演出したのですか?
監督「以前にテレビドラマを撮った時、一緒にやったのがほとんど素人さんでした。だから、素人の方たちとどういう風に作品を作っていくかについては、かなり経験がありました。一番大きかったのはキャスティングです。素人でもぴったりの役柄をやらせれば、それほど無理せずに自分の持ち味を充分に発揮できます。まず、キャスティングをどうするかで成否が決まったと思いますね。もう1つは、自分にも俳優の経験があること。目の前にいる役者たちが今どういう気持ちでいて、どういう風に演出したらいいか、わりと相手の気持ちをキャッチできるので、一緒に作っていけたんです。
素人の方たちと一緒にやるのは、僕にとってはたいしたことではなかったのですが、その中で、永瀬さんのように30年もキャリアのある方と彼らをどういう風にバランスをとって演出していくかが、とても大きな問題でした。永瀬さんはその辺のところをきちんと合わせてくださり、僕が思い描いているようなシーンにするために、アドバイスもしてくれたし、いろいろと協力してくれました。永瀬さんにはとても感謝しています」
Q:永瀬さんとは仲良くなられたんですよね?
監督「僕のソウルブラザーです! ホテルにお花を届けてくださったんですよ。ヤサシイネ。やはり人間は苦難の時を一緒に乗り越えてきたことが、とても大きいですね。『KANO』を撮るのはほんとうに疲れたし辛かったけど、それを一緒にやってきたことで、心の絆がものすごく強くなったと思います。もちろん、途中では意見の不一致が何度もありましたが、兄弟だって喧嘩しますよね。そこを乗り越えて、皆でこの『KANO』を仕上げたことはとても大きいです」
●監督としてのこれから
Q:今後の監督としての予定、俳優としての予定を教えてください。
監督「『KANO』の後で、2作品に出ています。1つは映画で、1つはテレビドラマ(「徴婚啓事」)。『KANO』の宣伝でずっと忙しかったので、友情出演ですが。俳優業もやめずに続けていくつもりです。俳優の面白さは、やはり自分と違う様々な人生を生きられること。それは自分のいい経験となって蓄積されていくと思うので、やめないでおこうと思います。
永瀬さんとは『もし永瀬さんが映画を監督することがあれば、僕が主演でどうですか?』と冗談で話したんです。でも『無理ダ』と(笑)。永瀬さんは俳優でいいそうです。監督業は考えていないみたい。疲れるとわかってるから(笑)。でも、永瀬さんはただの俳優ではなくて、ほんとうにクリエイティブなアーティストですね」
Q:次の作品も楽しみですが、次回はどういうものを作りたいですか?
監督「すごくたくさんありますね。戦争ものとか、原住民の文化とか。今、わりと具体的に計画しているのは、台湾の最下層にいる単純労働者の物語です。つまり原住民ですね。そういう題材だと、商業ベースの作品では撮れないとよく言われますが、『KANO』を撮ったので、僕には社会派の映画であっても娯楽作品に仕上げる自信があります」
最後に力強い答えを返してくれたマー監督。快活で朗らかな方でしたが、内に秘めた信念には熱いものを感じました。日本語もわかるようで、通訳の前に反応したり、日本語も交えたりと、笑いの絶えない楽しいインタビューでした。本作の経験で大きく成長したであろうマー監督の次回作が楽しみです。また、俳優としての活躍も楽しみにしたいと思います。
(2014年12月1日 乃木坂にて単独インタビュー)
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