久しぶりに公式来日したチェン・ヨウチェ監督
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一番大事なものは何か
子どもたちに
何を残していくか を
アイデンティティと共に描く
−チェン・ヨウチェ
(鄭有傑)
台湾ホットフォーカスでもご紹介した台北映画祭2015。観客賞を受賞したのは、チェン・ヨウチェ(鄭有傑)監督の6年ぶりの長編作品となった『太陽の子』(原題:太陽的孩子/Wawa No Cidal)でした。
レカル・スミ(勒嗄・舒米)監督との共同監督による本作。台湾先住民アミ族の血を引くレカル・スミ監督が故郷に戻った時、母親が始めた棚田復活活動を記録したドキュメンタリー作品『海稲米的願望』を元に、劇映画として生まれ変わった作品です。そこには、故郷の伝統や自然を守り、自分たちのアイデンティティに誇りを持って生きていきたいという願いが込められています。
この『太陽の子』に感動し、日本での上映を実現させたいという人々の手で、上映プロジェクトが立ち上がりました。そして、プロジェクト第一弾として、6月24日の夜、虎ノ門に新しくオープンした台湾文化センターにて、チェン・ヨウチェ監督を招いたプレミア上映会が開催されました。残念ながら、レカル・スミ監督は次回作の撮影中で来られませんでしたが、チェン・ヨウチェ監督への単独インタビューが実現。日本語も得意のチェン・ヨウチェ監督が、作品への思いと、監督業そして俳優業までと、通訳なしでたっぷりと語ってくれました。
●レカル・スミ監督との映画作り
Q:6年ぶりの長編映画ですが、この作品には元になったドキュメンタリー作品があります。映画にしようと思われたきっかけ、制作の経緯をお聞かせください。
監督「この映画には二人の監督がいます。レカル監督、地元のアミ族の若手監督なんですが、彼が撮ったそのドキュメンタリー(『海稲米的願望』)を見て感動しました。ただ、ドキュメンタリーの中ではお米を作ってることしか撮ってないのです。同時にその周りで起きているたくさんのこと、例えばホテル開発のこととか、いろんな文化に関するものがなかった。そこでこの、お米を作る、畑を復活させることをテーマにして、もっといろんなことを取り込んでいこうという話になり、一緒にやりましょうとレカル監督を誘いました」
Q:チェン監督から誘ったのですね?
監督「これをもっとたくさんの人に伝えたいというのがありました。まず、台湾の先住民の人口は2%くらいなんです。でも、先住民が当たり前と思っていることが、その他の、先住民ではない僕みたいな漢民族の人間には、ほとんどわからないのです。だから、こういう映画を作ってコミュニケーションを取ろうと思いました。そういうスタンスで一緒にやろうと。二人とも納得いくものだったら、きっと共通のものにできるからと」
Q:レカル監督は映画ではどの部分を担当されたのですか? 役割分担はあったのですか?
監督「まず演出に関しては、主人公のパナイ以外はほとんど彼です。出てる方が彼の村の人たち、しいて言えば彼の親戚、村人なんですね(笑)。僕はアミ族の言葉がわからないし、村人の演出は彼に任せていました。僕は主人公のパナイの演出と、後は全体的な技術の方。彼はドキュメンタリーしか撮ったことがない。それも映画学校とかそんなんじゃなくて、ほんとに自分でカメラを持って、初めてそこから始めた。(彼の村は)台湾で一番辺鄙なところなんです。だから、彼の学問はすべて、インターネットから自分で学んで、自分で撮って、編集とかも全て自分でやりあげました。そのような監督なので、最大限、彼の良さを表わすことにしました。僕は技術の部分が多かったですね。カメラとか他の部分、それからプロデュース。今回は自分でプロデュースしたから」
主人公パナイは荒地を畑に復活させ海稲米のネット販売を始める (c)一期一會影像製作有限公司
●自然な演技の秘訣と畑作りのシーン
Q:レカル監督が演出をするのはじめてのことだと思いますが、演出や演技のし方なども教えたのですか?
監督「実は今回はあんまり、演出みたいなことはしてなくて、この映画に出てくる人たち自身の話ですから、むしろ僕より彼らの方がストーリーに関しては詳しいんです(笑)。例えば、映画の中に出てくるおばあちゃんとかおじいちゃん。彼らの生活の中で、自分の土地を守ることは、実際にやってきたことだから、彼らの方がわかるんです」
Q:演技ではなくて、自然に出てくるんですね。
監督「自分の人生を再現してるようなものだから。僕たちは指導するというよりも、再現できるような環境を作って、再現させるっていうスタンスなんです」
Q:主人公のパナイさんのストーリー、最初は都会で記者をやっていて、故郷の村へ帰ってくるというストーリーは創作で、それに沿って、本当の話がつながってくるのですね?
監督「そうです。レカルのお母さんの話はそれを参考として撮ってるだけで、そのままのストーリーではないんです。彼のお母さんはテレビ記者じゃないし、子どももそんなに小さくないし。一応、畑を復活させるということだけが同じなんです」
Q:水路を作って、畑を復活させます。あの畑は最初は平地でしたが、実際に作ったのですか?
監督「ちょうど、隣の村が同じ事をやり始めたんです。レカルの村は4年前にやっちゃってるんですよ。平地を畑に作りなおすと。それを見習って、隣の村がちょうど僕たちが撮影している時に、それを始めたんです。だから、こっちでも撮って、あっちでも撮ってと…」
Q:両方で、前後を?
監督「そうそう。地形が似てるから、地元の人じゃないと見分けがつかないんです(笑)」
Q:時間をかけて作られたのかと思いました(笑)
監督「でも、実際は8ヶ月くらいかかっています。土地を作りなおすところから、季節によって、いつ、何をする…というのがあるから、実際は8ヶ月くらいちょくちょく撮って、最後に1ヶ月半くらい集中して、ドラマの部分を撮りあげました。だから、半分はドキュメンタリーなんです」
父から伝統技術を教わるパナイ
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ホテル開発仲介人の幼なじみも協力
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(c)一期一會影像製作有限公司
●彼女ならパナイ役ができると確信していた
Q:主人公のパナイを演じたアロさん(アロ・カリティン・パチラル/阿洛・卞力亭・巴奇辣)は歌手ですよね? 演技は初めてなんですね?
監督「はい。初めてです」
Q:とても上手く演じておられたと思います。
監督「彼女はもともと、演技のできる方なんですよね。したことはないけど絶対できると、初めて会った時から、僕は確信してたんです。そのエネルギーがあるから。彼女自身の経歴とパナイはすごく似てるんです。テレビ局の記者であり、勉強がよくできて、アロ自身は博士なんです。それも、中国文学の博士なんです。司会もやるし、歌手もやるし。台湾の一般社会で成功しているけど、でもやっぱり、ほんとうの自分は誰か?という、自分のアミ族のルーツを辿りたいというのが常にあって。ほとんど、そのまんまなんですよ。だから、できないわけがない(笑)」
Q:自然に内面から出て来るんですね?
監督「特に、あのスピーチ。小さい頃、自分の訛りのない標準語で賞をたくさん取っていて…それもまさに、彼女の経歴をそのまま脚本にして演出したんです。そのシーンだけは、絶対泣くなよって(笑)。絶対、泣けるシーンなのに、絶対泣くな、涙を流すなよって(笑)」
Q:撮影は難しかったですか?
監督「でも、必死で堪えて、堪えながら立ち向かっていくっていうところが、僕は好きだったんです。だから、一発撮りでした。皆、一発撮りの覚悟を決めて、一発で撮りあげました」
●逃げ出しそうになったナカウ役のイェンズー
パナイは娘のナカウと息子のセラを故郷に残し都会で働いていた (c)一期一會影像製作有限公司
Q:娘のナカウ役を演じたウー・イェンズー(呉燕姿)もすごくよかったですね。最初から最後の走るところまで、だんだんよくなっていきますよね。
監督「実は、映画を撮り始めると、すごく拒否反応を示したんです。映画はやりたくない!と。出てくれているのは皆、現地の子なんですが、最初は面白がって、夏休みに映画に出ようって、そういう感覚でやり始めて。ところが、実際に始まると、スタッフは大勢いるし、皆すごく真剣な雰囲気なので、怖じ気付いちゃって。やりたくない!って、そういう反応をしたんですね。撮り始めて半分くらいで、しくじっては、急にもうやりたくないと。そういうことがよくありました。自信をなくしちゃったんです。だから彼女の場合は、どんどん励まして勇気づけました。
陸上で走るシーンは、最初は脚本になかったんだけど、彼女が得意だというのを知って、得意なものをやらせようと。それだったらいいだろうっていう感じで、それを取り込んでいって。最後に『お前は誰だ?』『パンツァ!』ていうシーンも、最初は脚本になかったんですが、イェンズーに自信をつけさせようと思って、そのシーンを書きました」
子役は現地の子どもたちを起用
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陸上でやる気を出したナカウ役のイェンズー
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(c)一期一會影像製作有限公司
Q:走る試験に受かって、大学に進学できることになったのですよね?
監督「そうです。そういうケースは多いです。先住民の子どもは」
Q:走るのが速いんですよね。
監督「運動も音楽も、そういう才能に長けてるから」
Q:実は今回の取材の前に『ヤンヤン』を見直していたのですが、走るところが、ヤンヤンとリンクして見えてしまいました(笑)
監督「そうですね。偶然にね。僕は皆から、走る少女が好きなおじさんと見られてるけど、たまたま、偶然なんです(笑)」
Q:タイトルも『太陽の子』で『ヤンヤン(陽陽)』ですもんね(笑)
監督「そうですね。もう…どうしよう。弁解のしようがない(笑)」
というわけで、深読みし過ぎました。最後のナカウが走るシーンは『ヤンヤン』を意識したのではなく、たまたま偶然にそうなったのだそうです。きっと似たような質問が多かったと思うのですが、監督、困らせてごめんなさい。(次頁へ続く)
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