logo


asicro column

更新日:2007.2.5

電影つれづれ草
魅惑の4月 ―香港国際電影節

 今年も香港国際電影節の季節がやってくる。例年イースターの連休を挟む十数日間の期間中、洋の東西から集められた長篇、短編、アニメーション、ドキュメンタリーなど300本ほどが上映される。今年で28回目を迎えるこの映画祭は、東京国際映画祭や釜山国際映画祭よりも歴史が古く、多彩なプログラムには多くの映画ファンや映画関係者が熱い視線を注いできた。もともとコンペティション部門はなかったが、1999年より国際批評家連盟賞(FIPRESCI)が、2003年より新人監督を対象とした「ファイアバード賞」が設けられた。

 アジアを代表すると言っていいこの映画祭も、これまで、いくつかの浮き沈みを経験しているが、最大の波は1997年の香港返還のときであったろう。政治性や商業性に左右されない毅然とした作品選定に定評があっただけに、返還後も独立性に富んだ立場が維持されるのかと多くの関係者が心配したが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。そのかわり、近年の香港映画界の不振が暗い影を落としていることは否めないだろう。釜山や上海など、近隣の映画祭との競合も益々激しさを増している。しかも昨年はSARS蔓延の時期と重なったため、涙を呑んで渡港を断念した日本の香港映画ファンは少なくなかった。けれども内外の観客の熱意に支えられ、逆風をばねにしながら、アジア有数の映画祭としての矜持を守っている。

 香港電影節が特に力を入れているのは、日ごろ映画館では上映される機会がめったにないアジアの秀作を数多く紹介することにある。また、日本の映画ファンにとっての魅力は、香港映画の歴史的回顧上映や、前年に劇場公開された香港映画の優秀作品を上映する「香港パノラマ」、そして特定の監督をクローズアップする「ディレクター・イン・フォーカス」の各部門だろう。焦点を当てられる監督も、以前は欧米のアート系監督が多かったが、99年頃からはアジアや地元の監督を取り上げる傾向にあり、近年では、黒沢清、ジョニー・トウ(杜[王其]峰)、アン・ホイ(許鞍華)、ジェフ・ラウ(劉鎭偉)らの作品が特集された。

 回顧部門も充実している。「香港ニューウェーブ−20年後の回顧」展や、香港と日本はじめアジア各国との合作の長い歴史に注目した「跨界的香港電影」の上映、香港のかつての二大映画会社である、キャセイとショウ・ブラザーズ作品特集などによって、これまで名のみ高かった往年の名作や名優たちを思う存分堪能できたのである。先日発表された今年のラインナップを一瞥すると、例年どおり盛りだくさんの内容である。昨年他界したレスリー・チャン(張國榮)とアニタ・ムイ(梅艷芳)の追悼上映をはじめ、ウォン・カーウァイ(王家衛)作品などでおなじみの名美術監督、ウィリアム・チョン(張叔平)に焦点をあてた特集、韓国の鬼才監督キム・ギドクの特集もある。クラシック映画ファンには、生誕101年記念の清水宏監督の回顧上映や没後40周年になる往年の名女優、林黛の小特集も見逃せない。

(2004年3月6日)

text by イェン●プロフィール
映画史研究を専門とする。香港・台湾電影と中華ポップスを愛好。目下、アメリカで出版された香港映画研究書の翻訳に悪戦苦闘中。

●back numbers
2007年2月5日
シェイクスピア劇の中国的翻案『夜宴』
2006年11月25日
アジア太平洋映画祭
2006年9月18日
台湾映画『浮世光影』のこと
2006年7月29日
スタンリー・クワンの『男生女相』再見
2006年6月19日
中国映画製作の盛況と「映画
監督チェン・カイコーの世界」

2006年4月15日
映画『東方不敗』を読みとく
(後編)

2006年3月10日
映画『東方不敗』を読みとく
(前編)

2006年1月29日
『わが父 溥傑』
 娘が語る波乱の生涯

2005年12月27日
「アジア映画」の可能性?
2005年11月8日
『月光の下、我思う』
−台湾文学初心者の覚え書き

2005年9月25日
変貌する台湾映画
2005年8月22日
台北で体験したユニークな映画館
2005年7月2日
台流? 華流?
2005年5月30日
古装武侠映画の変遷
2005年5月1日
オムニバス映画の可能性
2005年3月25日
製作から23年後の
『烈火青春』公開に寄せて

2005年2月21日
ウォン・カーウァイと香港文化
−也斯氏の講演を聴く

2005年1月22日
北京で話題のミュージカル
『雪狼湖』を観る。

2004年12月17日
日本と香港映画の架け橋
−キャメラマン、西本正

2004年11月24日
ふたりのヨシコ
−李香蘭と川島芳子

2004年10月13日
香港インディーズへの期待
東京国際映画祭「アジアの風」に寄せて
2004年9月14日
60年代の日本映画とアジア
2004年8月11日
『七人の侍』大比較!
2004年7月11日
香港−日本の越境フィルム
2004年6月10日
カンヌで「アジアの風」は吹いたけれど
2004年5月10日
男たちの聖域
2004年4月4日
「四海」を駆け巡るジョン・ウー映画
2004年3月6日
魅惑の4月 ―香港国際電影節





●筆者関連本情報:
『男たちの絆、アジア映画
 ホモソーシャルな欲望』
(四方田犬彦・斎藤綾子共編)
 4月刊行 平凡社/2525円

yesasia

未公開映画のVCD/DVDをゲット!