魅惑の4月 ―香港国際電影節
今年も香港国際電影節の季節がやってくる。例年イースターの連休を挟む十数日間の期間中、洋の東西から集められた長篇、短編、アニメーション、ドキュメンタリーなど300本ほどが上映される。今年で28回目を迎えるこの映画祭は、東京国際映画祭や釜山国際映画祭よりも歴史が古く、多彩なプログラムには多くの映画ファンや映画関係者が熱い視線を注いできた。もともとコンペティション部門はなかったが、1999年より国際批評家連盟賞(FIPRESCI)が、2003年より新人監督を対象とした「ファイアバード賞」が設けられた。
アジアを代表すると言っていいこの映画祭も、これまで、いくつかの浮き沈みを経験しているが、最大の波は1997年の香港返還のときであったろう。政治性や商業性に左右されない毅然とした作品選定に定評があっただけに、返還後も独立性に富んだ立場が維持されるのかと多くの関係者が心配したが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。そのかわり、近年の香港映画界の不振が暗い影を落としていることは否めないだろう。釜山や上海など、近隣の映画祭との競合も益々激しさを増している。しかも昨年はSARS蔓延の時期と重なったため、涙を呑んで渡港を断念した日本の香港映画ファンは少なくなかった。けれども内外の観客の熱意に支えられ、逆風をばねにしながら、アジア有数の映画祭としての矜持を守っている。
香港電影節が特に力を入れているのは、日ごろ映画館では上映される機会がめったにないアジアの秀作を数多く紹介することにある。また、日本の映画ファンにとっての魅力は、香港映画の歴史的回顧上映や、前年に劇場公開された香港映画の優秀作品を上映する「香港パノラマ」、そして特定の監督をクローズアップする「ディレクター・イン・フォーカス」の各部門だろう。焦点を当てられる監督も、以前は欧米のアート系監督が多かったが、99年頃からはアジアや地元の監督を取り上げる傾向にあり、近年では、黒沢清、ジョニー・トウ(杜[王其]峰)、アン・ホイ(許鞍華)、ジェフ・ラウ(劉鎭偉)らの作品が特集された。
回顧部門も充実している。「香港ニューウェーブ−20年後の回顧」展や、香港と日本はじめアジア各国との合作の長い歴史に注目した「跨界的香港電影」の上映、香港のかつての二大映画会社である、キャセイとショウ・ブラザーズ作品特集などによって、これまで名のみ高かった往年の名作や名優たちを思う存分堪能できたのである。先日発表された今年のラインナップを一瞥すると、例年どおり盛りだくさんの内容である。昨年他界したレスリー・チャン(張國榮)とアニタ・ムイ(梅艷芳)の追悼上映をはじめ、ウォン・カーウァイ(王家衛)作品などでおなじみの名美術監督、ウィリアム・チョン(張叔平)に焦点をあてた特集、韓国の鬼才監督キム・ギドクの特集もある。クラシック映画ファンには、生誕101年記念の清水宏監督の回顧上映や没後40周年になる往年の名女優、林黛の小特集も見逃せない。
(2004年3月6日)
text by イェン●プロフィール
映画史研究を専門とする。香港・台湾電影と中華ポップスを愛好。目下、アメリカで出版された香港映画研究書の翻訳に悪戦苦闘中。
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