変貌する台湾映画
10月22日から開催される第18回東京国際映画祭の上映作品が発表になった。
例年、個性的なラインナップでアジア映画ファンが熱い視線を送る「アジアの風」部門での今年の話題は、「台湾:電影ルネッサンス」と称して、過去最多の11本もの台湾映画が特集されることだろう。その内訳は、劇映画7本、ドキュメンタリー3本、アニメーション1本という多彩な内容だ。
台湾では長らく商業映画の不振が続いてきた。私たちの抱く台湾映画のイメージは、政府の助成によって映画祭などに出品される作家性の強い作品が代表で、海外では、侯孝賢や楊徳昌、蔡明亮といった監督たちはつとに知られていても、一般の台湾の人々が台湾映画を見るという機会はかなり少ないというのが実情だろう。
少しデータをあげてみよう。ウェブサイト「台湾電影網」に掲載されている資料によると、過去10年間の劇映画製作本数は次のように推移している。
1996年
1997年
1998年
1999年
2000年
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3本
3本
5本
4本
34本
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2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
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17本
21本
15本
25本
24本
*これまでの時点で
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2000年以降、劇映画に限っても製作本数は確実に増えている。さらに今年からは、台湾政府が映画製作振興に積極的に取り組む姿勢をみせており、年間製作100本を目指すという関係者の希望が表明されてもいるらしい。
しかし製作本数が増えても、台湾の観客が映画館に足を運んでくれるようなヒット作品はなかなか生まれない。李安のような良質な商業映画の作り手たちもハリウッドに拠点を移してしまっているのが現状だ。
作品ヒットの条件はいろいろあるが、中でも重要な要素であるスターの存在が台湾映画にはこれまで欠けていた。ある一時期は存在したらしいが、香港のようなスターシステムは継続しないまま現在に至っている。だから、台湾の俳優といえば、香港映画で活躍したスター(ブリジット・リンやジョイ・ウォンなどなど)か、上記の著名監督に好んで起用されるような、ごく一部の俳優だけが、日本などでは知られてきた。
しかし、そのような状況にも、ようやく変化のきざしが現れてきたようだ。張震(チャン・チェン)をはじめとして、陳柏霖(チェン・ボーリン)や楊祐寧(トニー・ヤン)などは、台湾の若手映画俳優の代表になりつつある。
また、今年始め中国・香港合作の『做頭』に出演した霍建華(ウォレス・フオ)、最近封切られた香港映画『摯愛』に主演した郭品超(ディラン・クオ)のほか、今度の東京国際映画祭で上映される『恋人』の藍正龍(ラン・ジェンロン)、『月光下我記得』の施易男(シ−・イーナン)のように、テレビの偶像劇(男女アイドルが多数出演する都会の青春群像劇)出身の若手俳優たちが、映画に進出し始めている。もちろんF4の面々も、その中に含めなくてはいけないだろう。
かつて同じように映画界にニューウェーブを起こした香港と台湾だが、両者のたどった道は明暗を分けた。香港ではテレビが人材養成の場となり、ツイ・ハークやアン・ホイ、さらにはウォン・カーウァイからジョニー・トウにいたるまで、テレビ出身の監督たちが映画に転じて活躍している。それに対して、台湾では、長らく映画界とテレビ界は分離していたようだ。
しかし、今、テレビドラマの世界で実力を培っている若手の監督たちが、やがて映画に転じる道が容易に開けるようになれば、香港以上に層が厚いと目される台湾の若手スターたちが活躍する商業台湾映画の時代が、いずれはやってくるかもしれない。
(2005年9月25日)
text by イェン●プロフィール
大学で西洋の映画の講義などをするが、近頃では、東アジア映画(日本映画も含む)しか受け付けないような体質(?)になり、困っている。韓流にはハマっていない、と言いつつドラマ『大長今』(チャングムの誓い)に熱中。中国ドラマ『射[周鳥]英雄傳』も毎回楽しみで、目下ドラマ漬けの日々。
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