ある夜、ソウルの映画館で
何度目かの韓国で「初めて一人」で映画館に行った。いつも友人と行く所でなく、ホテル最寄の映画館に、レイトショーを観に行ったのだ。
窓口で「これ1枚」と指さすと、そのタドタドしい韓国語にお姉さんがのけぞり、何事かをまくしたてた。いや、その、そんなに早く言われては…わからないんですが…いえ、実は、ゆっくり話されてもわからないんだけど…。全く何も通じてない様子に呆れた彼女は奥の部屋から、責任者らしきオジさんを連れてきた。彼は英語で言った。
「この映画に日本語字幕は無いよ、それでもいいの?」
なんだ。そんな心配だったのか。
「勿論!」
「台詞も韓国語だよ。ケンチャナヨ?」
「うん!」
オジさんもお姉さんも、周りで見ていた人達も「へぇ〜韓国語わからないのに映画観るんだ?」不思議そうに見ていた。
指定されたフロアに着くと大学生くらいの受付男子2名が私に「何か」を言った。無論、わからない。
「え?何?」
と近づいていくと、彼らは何も伝わってない感触に「どうやら韓国人じゃないらしい…」と慌て出し、身振り手振りで
「ココで少し待って下さい」
と伝えていた。ふぅ〜ん?
「Wait here?」
と確認すると、彼らはそれ以上の説明を断念し、場内に私を招き入れソファーに座らせた。
「G-5はどこかな?」
座席図を見ていると、彼らが背後から
「ジー!G!」
と言う。うん。ハングルは読めないがアルファベットは読めるぞ。そしてG列を指しながら
「ワン、ツー、スリー…」
と「G-5」の位置を教えてくれようとしていた。
「フォー…フォー…」
でも、「フォー」から先に進まないのだ。振り返って
「ファイブ!」
と言うと彼らは「おおーっ」とどよめいた。んなアホな(笑)。これで席はしっかり把握! だが、彼らは「G-5」までわざわざ案内してくれた。でも…二人がかりではほぼ介護に近い(苦笑)。
「カムサハムニダ〜」
と告げると、彼らの緊張が解け、その笑顔の中に達成感がのぞいた。
私のボロボロの韓国語と彼らの頼りない英語とジェスチャーと。本編上映前に、私は別の映画を1本のぞき見した気分だった。
(2004年2月20日)
text by 龍玲花●プロフィール
東京都、荻窪生れ。韓国との第1種接近遭遇は、1997年サッカー韓国代表。以後、2000年から韓国映画が加わり現在は韓国映画とサッカー韓国代表との間をハートが往復する日々。「言葉は耳から覚える!」がモットーで、未だ読めるハングルは、選手名、チーム名、俳優名、映画のタイトルに食べ物…と偏りっぱなし。ミーハー体質のまま未来永劫突き進む所存也。
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