今度は、ソギポの映画館で
済州島(チェジュド)の西帰浦(ソギポ)を訪ねました。空港のある済州エリアや新済州エリアには、デパートやシネマ・コンプレックスがあるそうですが、私の泊まった西帰浦エリアは、海沿いにワールドカップ競技場があることで有名ながら、街そのものはこじんまりとした静かなところでした。
1本の通りに野菜や肉や金物を扱う市場があり、その隣の通りにはロッテリアに、サーティーワンに、バーガーキングにファミリーマートと、日本でもお馴染みの店が並んでいます。チェジュドの女子高校生と話す機会があったので、早速、尋ねてみました。
「ソギポに映画館あるよね?」
「ありますけど…済州市のように大きくはないですよ。」
お願いして、映画館まで連れていってもらいました。映画館は、5階建ての古い雑居ビルの3階。ビルの前には、映画『マラソン』の大きな布ポスターが下げてあります。
「この映画知ってます?」
「うん。『セクションTV』でメイキングを紹介してるのを日本で見たし、昨夜もたまたまソギポのホテルでTVを見ていたらCMが流れたよ。」
「日本で『セクションTV』が見られるんですか?」
「契約すると有料で見られるチャンネルがあるの。」
「じゃあ『マラソン』のあらすじはご存知なんですね?」
「なんとなくね(苦笑)。実話なんだよね。」
「済州市の映画館なら、ソウルと同時公開なんですが、ソギポでは1ヶ月半くらい遅れて映画が公開されるんですよ。」
「あ、だから、このポスターの公開日付の部分に上から数字が貼ってあるのね(笑)。この主役の俳優は、以前に『春香伝』で主役をやった男の子だよね? え〜っと、名前は忘れちゃったけど、当時ハン・ソッキュ2世と騒がれたような…。」
「そうそう、その俳優です! あ! ココじゃ、日本語の字幕はありませんよ!」
「あったらビックリよ(笑)。」
心配してくれる女子高校生と明日また会う約束をして別れ、夕食後、映画館へ向かいました。
3階の入口へ行くと、オジさんが「下でチケットを買って来て」。2階はレストランなので通過すると、1階は階段以外何もなく、チケット売り場はどこ? また3階に戻り、オジさんにチケットは何処で買うの?と聞くと「だから下だってば」と、階下を指さすばかり。え〜! 何処にあるの〜?
オジさんがアキレタ顔で「ココだよ〜!」と連れていってくれたのは、3階と2階の中間にある踊り場の壁。「ココ?の、ドコ?」壁には映画の上映時間のリストが貼ってあり、その下に穴があいています。その穴に7000ウォンを差し出すと、チケットが1枚戻ってきました。(チケットを販売している人の顔は一切見えないんです! なんせ壁面なんですからっ!)
入場してスグ左手には、昔ながらのショーウィンドウの中にポテトチップスやさきいか等の乾き物が並んでいました。あとはドリンク類とアイスクリームのみ。
ロビーは照明が暗く、TVではニュース番組。ソファーがだるまストーブを囲むように配置されており、壁には次回公開予定のアメリカ映画のポスターが貼られていました。足元はアラビア模様のカーペット。劇場の座席は、案の定ギシギシ音を立て、子供を連れた2〜3家族がばらけて座っていました。子供たちは上映中でも走り回り、私の顔をのぞき込むと「お母さんじゃなかった!」と言い残して、また走っていきました。本当に間違ったのか、イタズラなのか(苦笑)。
シネマ・コンプレックスが当たり前になる前は、日本の映画館でもソウルの映画館でも同じような光景があったような…。映画以上に、映画館から味わった多くのモノを、高い月を見上げながら何度も思い出しては歩いて帰ったソギポの夜。この映画館がいつまでもこのままであって欲しいと願うのは、旅人の勝手なノスタルジーなんでしょうね。
(2005年4月27日)
text by 龍玲花●プロフィール
東京都、荻窪生れ。韓国との第1種接近遭遇は、1997年サッカー韓国代表。以後、2000年から韓国映画が加わり現在は韓国映画とサッカー韓国代表との間をハートが往復する日々。「言葉は耳から覚える!」がモットーで、未だ読めるハングルは、選手名、チーム名、俳優名、映画のタイトルに食べ物…と偏りっぱなし。ミーハー体質のまま未来永劫突き進む所存也。
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