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asicro column

更新日:2006.3.23

アジア接近遭遇の旅

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かもめ食堂とベトナムコーヒー

 映画『かもめ食堂』を観ました。主演女優・小林聡美が好きだという理由だけで。共演が、もたいまさこ、片桐はいりという個性炸裂な面々だったので、深く考えずとも面白いだろうとふんだわけです。

 舞台は日本からもっとも近いヨーロッパの国、フィンランド。その首都ヘルシンキで、主人公の日本人サチエ(小林聡美)が経営する「かもめ食堂」で起こる様々なエピソードを淡々とさりげなく、でも根底は何か熱いモノが通っているようなそんな雰囲気で描いています。

 出演者はそれぞれ悩みを持ち、自分の道を探しています。どうしていいかわからないけど、何かしないといけないような気がする、みたいな。何も考えていないようでいてその実、迷いながら考えながら…。美しいヘルシンキの風景と監督・荻上直子の簡潔な脚本がとてもマッチしていて映像美としても素晴らしく、漠然と生きている自分に何か訴えかけているような気持ちにさせてくれます。

 細かい笑いの中にちりばめられた問いかけ。そんなこの作品の中で、こんな台詞があります。「ヒトが淹れてくれるコーヒーが一番美味しいんだ」これは、サチエが客に美味いコーヒーを淹れるコツを教えてもらった時に言われる台詞なのですが、これを聞いて思い出しました。

かもめ食堂1 かもめ食堂2

『かもめ食堂』シネスイッチ銀座、他にて上映中。(全国順次公開予定)

 まだワタシが20歳前後の頃。ずっとベトナムに憧れていた頃。知識としてしかベトナムコーヒーのことを知らなくて、本で読んだとおりにコンデンスミルクをカップに入れ、濃い目のコーヒーを注いで飲んでみたものです。その時はこんなものかなと、恋焦がれるベトナムに想いを寄せていただけで、美味しいといえば美味しいかな、程度の味。

 その数年後、念願かなって単身ベトナムへ。暑くねっとりとした彼の地は、様々なカルチャーショックを与えてくれました。人々の素朴さ、旺盛な商売っ気、貧富の差、ベトナム戦争の名残…。楽しくて悲しくて面白くてせつない国、ベトナム。

 そのベトナムで突然のスコールに出会った午後、ワタシはバケツをひっくり返したように振り続ける雨を避けて、一軒のカフェに入りました。カフェといっても、単に家の前にお風呂場にあるようなプラスチック製の椅子が数個置いてあり、軒下にかけてある雨よけから体がはみ出ないようそれに座り、雨の中を行きかうバイクや車を眺めてるだけなんですが…。

 ワタシ以外に客はおらず、アルミのドリッパーからチロチロと落ちていく真っ黒なコーヒーを眺めながら、店主のおばあちゃんの横でぼんやり。濃く、しかも猛烈に甘いカフェ・ノン(ホットコーヒー)は、今考えればとうてい飲めたものじゃなかったかもしれないけど、地面に落ちた雨がビシャビシャとワタシの足に跳ねる中で飲んだあのカフェ・ノンは、本当に本当に美味しかった。無造作に作ってくれたおばあちゃんと、並んで同じものを飲んでいたこともなんだかちょっと愉快で、少々物乞いや客引きにウンザリしていた身にとって一瞬の癒しだったのかもしれません。

 言葉の通じないおばあちゃんとうなずきながら飲むコーヒー。自宅でぼ〜っと作ったコーヒーとはまるで味が違ってた。「ヒトが淹れてくれるコーヒーが一番美味しいんだ」そんなことを、この台詞で思い出したわけです。今、また同じようにベトナム式にコーヒーを淹れてみても、きっと不味いに違いない。あの時と同じように、あのおばあちゃんに淹れてもらったコーヒーが、どのコーヒーより美味しいんだろうな。

 スコールが通り過ぎるまでの十数分のことだったのですが、あのおばあちゃんは、今でも変わらずあそこでコーヒーを淹れてるかしら…すっかり忘れていたので、その後ベトナムを訪れた時に、確認してませんでした(@@)

 さて、その「かもめ食堂」ではもう一つ名言が。「私、したくないことはしないんです」大きく同感。ワタシもしたくないことはしない! 悔いなく人生を満喫していたいと思う、今日この頃です。

(2006年3月21日)

text by あチョ●プロフィール
大分県出身。『好きなら突き進め』を胸に日々感動を求めてアジア各地をさ迷い中。

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