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asicro column

更新日:2005.11.9

アジア接近遭遇の旅

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仏様も寝転ぶタイの街で

 今年の4月にタイ旅行をしたときのお話です。タイが暑いのはわかっていたつもりだったのですが、.こんなにも湿度タップリでのしかかるような暑さだとは…。

 旅も3日目ともなると、朝のバイキングに起きてくるメンバーは限られてきます。夜な夜なお酒をたしなむ人たちは、朝飯はパスして眠っていたいものなので。

 前日までの移動はもっぱらタクシーでした。べつに贅沢をしたわけではなく、地下鉄やバスの路線の通っていない市街地を訪ねに行ったから。「まさに普通に観光客したいね!」今朝、テーブルについた3名で、タイに来たら誰もが行くという寺に行こうと決まりました。

 そして、ホテルの玄関につながる通りに1日中たむろしている、トゥクトゥクに乗ってでかけることに。
 「ワット・ポー(黄金の寺)に行くの」
 「オッケー! ワット・ポー!」
どでかい黄金の涅槃像がある寺へGO!

 トゥクトゥクがスピードをあげると、風が直接身体中を涼しくし、目に映る街並みが昨日までとは違う色になってきます。冷房のきいたタクシーでは感じることのなかった街の匂いに包まれて、初めてタイを実感した気分になりました。

 後部座席で互いをデジカメで写していた私たちを見て、渋滞で止まった途端に、運転手はトゥクトゥクを飛び降り、3人並んで座っている様子を私達のデジカメで撮影してくれました。

 そして、この小柄で気の弱そうなおじさんが、たどたどしく英語の単語を並べて説明してくれたことをつなぎあわせてみると、この日は何かしらの祝日*であるために(前夜はタイ国王に関連する祝日で、夜には花火が打ち上げられていた)お寺は午前中だけ開き、午後には閉鎖して観光できなくなるとか。

 だから急がなくちゃ、というようにトゥクトゥクをかっ飛ばしていたくせに、突如、路地に入り、トゥクトゥクが停車しました。
 「もうワット・ポー? ワット・ポー? ヒア?」
 「せっかくタイに来たのだから、ココでタイ・マッサージを受けるといいよ」
 「マッサージ? 朝の10時からマッサージはいいよ(苦笑)。早くワット・ポーに行って!」
 「でも、でも、でも」

 渋るおじさんをせっつき、トゥクトゥクを発進させます。大体、今日は午前中しかお寺は開いていないってアナタが言ったんじゃないのーーっ。

 しばし走ると、またキレイなお店の前にトゥクトゥクが停車。私たちにだって予想はつくというもの。観光都市で、まさに観光的乗り物に乗ったら、どういうところへ連れて行かれてしまうものなのかは、ここが何処の国でも、そう大差はないでしょう。

 「どう見ても、これはお土産屋だよね?」
内心は苦笑しつつも表向きは怒った顔でおじさんを見ると、
 「ちょっとガソリンが切れちゃって…。給油しないとワット・ポーまで行かれないからさ…この涼しいお土産屋に入ってて!」
まさに絵に描いたような展開(笑)。

 「じゃ、ちょっと涼むつもりで入ろうか」
 「ガソリン切れてはないけどねぇ(苦笑)」
 「まぁ少しくらい、この流れに乗ってやってもイイって言うか(^^;)」
 でも、お土産屋の店員はピタっと影のようについてくるのでした。
 「ね。3人バラバラで動きましょう」
 「決して足は止めないように」
 「ココで今お土産を買う気は無いから」
しばしの間、3名でグルグル店内を回遊し続け
 「さ。出るよ!」

 一斉に外へ出ると、運転手のおじさんはのんびりタバコをふかしていました。そして、私たちの姿を見ると慌てて、「まだガソリンを入れてないから、もう少しお土産を見たら?」

 多少透ける白いプラスチック製のガソリンタンクは、目盛りなど見なくても残りのガソリンがたっぷりあるのが見え見え。
 「ガソリン入ってるじゃん!」
 「いや、でもでもでも」
なんとかかんとか言いくるめようとするおじさんを、ついに怒鳴りつけてしまいました。

 「NO ワット・ポー、 NO マネー! バイバイ!」
ワット・ポーに行かないんだったら誰がお金を払うもんか! 他のトゥクトゥクでもタクシーでも拾えばいいんだも〜ん!と、私達が歩き去り始めると
 「OK!OK! ワット・ポー!」
おじさんはまたトゥクトゥクに乗るように、必死で追いすがるのでした。

 「ワット・ポー NOW?」(ワット・ポー 今すぐ?)
 「NOW!NOW!」(今!今!)

 そこからは、これまで以上のスピードで車と車の間をすり抜けて、アッ!という間にワット・ポーに到着。お金を渡すと、おじさんは一瞬のうちにトゥクトゥクと共に消えたのでした。

 後でガイドブックをよく読むと、タイでは「怒鳴る」ということが滅多になく「怒鳴られる」と、とても怯えてしまうのだそうな。ゴメンよ、おじさん。ワット・ポーに早く着きたかっただけなんだよ。

 この後、ホテル界隈でおじさんのトゥクトゥクをみかけることはありませんでした。そりゃそうだよね。同じ距離をタクシーで乗った金額の30倍(!)を私たちからふんだくったんだもん。あの黄金の仏様のように、しばらくはゴロゴロして暮らせるんでしょうから(苦笑)。

 まあ、仏様にお布施したと思えば、あのトゥクトゥク代も安いってもんだわ、と妙に納得した私たちでした(笑)。

*4月6日:チャクリ王朝記念日。チャクリ王朝(別名バンコク王朝)が1782年にラマ1世により創設された日。

(2005年11月7日)

text by 龍玲花●プロフィール
東京都、荻窪生れ。韓国との第1種接近遭遇は、1997年サッカー韓国代表。以後、2000年から韓国映画が加わり現在は韓国映画とサッカー韓国代表との間をハートが往復する日々。「言葉は耳から覚える!」がモットーで、未だ読めるハングルは、選手名、チーム名、俳優名、映画のタイトルに食べ物…と偏りっぱなし。ミーハー体質のまま未来永劫突き進む所存也。

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