70男の韓国プチ留学
現在の韓流ブ−ムになる2年程前に、60歳を越えてから韓国語を習い始めた男性の話を聞く機会があったので、少し紹介してみようと思います。
学生の頃から韓国語に興味はあったものの学ぶまでには至らず、彼の「韓国初体験」は妻同伴の社員旅行でした。言葉は何もわからなかったけれど、まるで子供の頃過ごした日本に再度触れたような心地よさを満喫して帰国。そして彼は、近所のカルチャースクールでやっている韓国語教室に通い始めました。
いつの間にか韓国映画にはまっていた妻と一緒に、毎日テレビで韓国ドラマを観るようにもなりましたが、彼にとっては「この俳優でなければ」という強い思いはなく「この俳優が好き」という気持ちも生まれません。という訳で、俳優の顔は知っていても、名前を覚えるまでには至りませんでした。
この数年に、家族旅行で3度ほどソウルに訪れ、いわゆる一般的な観光地を見物。韓国語教室の仲間も毎年誰かが韓国を訪問し、韓国での体験を語り合っていたので「この教室の皆でソウルに行きましょう」ということになりました。韓国語の先生のツテでソウルに「プチ留学」しようというのです。
ソウルに開設された「日本人対象の韓国語教室」へ、たった3泊4日の語学留学。午前中は、韓国人の先生による初心者向け韓国語の授業。勿論、授業は韓国語のみ。午後は、初日はキムチ作り、2日目は伝統演舞を観覧、3日目は皆で映画館に行き映画鑑賞。日程はザっとこんな感じでした。夕刻からは自由時間なので、皆で連れ立って買い物に出かけたり、夕食をとったりしました。
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左:韓国伝統仮面劇に出演した仮面の美女2人/右:インサドン付近の交差点
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すでに、彼は韓国語を5年ほど学んでいましたが、まだまだ初級といったところ。出発前までは「もう歳も歳だし、上達もこんなもんか」と思っていたのですが、たとえ流暢でなくても、今回実践で韓国語を使用して自分の言葉で韓国の人と会話をしたことによって、帰国後は「年に2〜3回は韓国で最低1週間、長ければ1ヶ月程滞在してもっと韓国語を学び、韓国そのものを体験したい」と目をキラキラさせて語り、まだ帰国したばかりだというのに、もう「次回はいつ行こうか?」と準備を始めるほどになったのでした。
大学に留学するほどの実力はないけど、韓国で韓国語の勉強をしてみたい、特に誰のファンというわけではないけど、韓国の映画館で映画を観たい、もう観光地は満喫したので、韓国の人とコミュニケーションをとってみたい、そんなことを思っていた彼にとって、今回のプチ留学はすっかりツボに入ったスケジュールだったようです。
そして帰国して数日後、彼は東京にある韓国文化院へ版画の展覧会を観に出かけました。平日の昼間のためか、客は彼ひとりきり。そこで彼は、版画の作者であるお坊さんに紹介されて話をするうちに、今度、韓国にあるそのお坊さんのお寺へ遊びに行く約束をしたそうです。
韓国で過ごした数日で彼を揺さぶった何かが、帰国後も彼を動かし、新しい縁を結ぶことになったんですね。ちなみに、それまでの彼は「引きこもり」と呼べるほど自分から出かけることがないタイプで、1人で展覧会へ出かけたのも初めてだったとか。現在70才を超えている男性のこの体験を知り、韓国とは人の気持ちを揺り動かす不思議な力があるのだなあと、改めて思いました。
老若男女を問わず人を魅了するあのパワーを浴びに、私もまた韓国に行きたくてたまらなくなっているところです。
(2006年4月29日)
text by 龍玲花●プロフィール
東京都、荻窪生れ。韓国との第1種接近遭遇は、1997年サッカー韓国代表。以後、2000年から韓国映画が加わり現在は韓国映画とサッカー韓国代表との間をハートが往復する日々。「言葉は耳から覚える!」がモットーで、未だ読めるハングルは、選手名、チーム名、俳優名、映画のタイトルに食べ物…と偏りっぱなし。ミーハー体質のまま未来永劫突き進む所存也。
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