百万ドルの夜景の下で…叫ぶ!
あれはまだ香港がイギリスから返還される前のこと。だから、ちょっと昔のこと。その年の始め、日本では天皇が崩御し秋に「大葬の礼」が執り行われると報道されていた。
「天皇のお葬式なんでしょう? つまり…日本全国、絶対その日は『休み』よね?」
「だったらその日を含めて、旅行に行っちゃおうっ!」
非国民5名はこうして厳戒態勢の成田から一路香港へ飛び立ったのであった。全員「初香港!」の5名、その内訳は私。私の母。母の友人。その方の娘&息子。
香港へ到着すると、エネルギーがわんわん唸ってスピード感あふれる街と人。喧騒。見るモノ全てが物珍しく楽しく、3日間なんて一瞬で過ぎてしまった。「最後のディナーだし! 今夜は贅沢しちゃう?(笑)」そんな流れで、旬ということもあり数種類の「生牡蠣」を食べたことが、実はその晩の始まりだった。
明日はもう朝ピックアップされて帰るだけ。疲れていても、香港の夜景が名残惜しくベランダでいつまでも眺めていると、既に寝入っていたはずの母が脱兎のごとくトイレに駈けこみ「ゲー!ゲー!」吐き出した。吐いて吐いて、もう胃袋は空っぽなのに一向におさまらない症状。これは尋常でない!
ホテルのフロントに「救急車呼んで!」と言うと「医者の診断がなければ呼べません。」何ですって?! 医者に見て欲しいから救急車呼びたいんだけどー?! ホテルのマネージャーと話すと「ホテルと契約している医者に電話させますのでお待ち下さい。」
医者にコンコンと症状を説明する。医者はそのまましばらく様子を見ようと言う。明日の朝には帰国予定なので、今、見て欲しいんだと更に訴える。根負けした医者が「香港で一番立派な病院へ救急車で行けるよう手配しましょう」と遂に折れる。
ホテルのマネージャーは「中国語がわからないとお困りでしょうからうちのボーイを一緒にいかせましょう。彼でしたら、英語も出来ますし、お役にたつでしょう。」そうか…ここから先は英語が通じるとは限らない世界なのか…。救急車に乗ると、これで病院へ行けるんだと安堵した。さ〜グングン飛ばせー! 病院へひとっ走りよろしくねー!
真夜中の香港。一台の車も走っていない道路。急に救急車が停車した。もう病院? 早いね! 窓の外を見る。まだ路上だ。病院ではない。「何故停まってる? 何故走らない? 急患なんだよ!」そう詰め寄ると救急隊員は前方を指差してみせた。「赤信号ですから」はぁーっ?! 救急車なんでしょーーっ!!
スターフェリーよりも、ピークトラムよりも思い出深い乗り物。それは香港の救急車。さ〜、急患の行方やいかに? この事の顛末はまたいずれお伝えすることになるでしょう。「生牡蠣」にはご注意あれ!
(2004年8月3日)
text by 龍玲花●プロフィール
東京都、荻窪生れ。韓国との第1種接近遭遇は、1997年サッカー韓国代表。以後、2000年から韓国映画が加わり現在は韓国映画とサッカー韓国代表との間をハートが往復する日々。「言葉は耳から覚える!」がモットーで、未だ読めるハングルは、選手名、チーム名、俳優名、映画のタイトルに食べ物…と偏りっぱなし。ミーハー体質のまま未来永劫突き進む所存也。
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